研究大会に参加して 
                               和田 栄治

               (東京都教育庁指導部義務教育特別支援教育指導課指導主事)

 子供たちにとって,命のかけがえのなさや死という厳粛な問題に対しては,具体的な体験をよりどころに,感動したり,驚いたりしながら,その思いや考えを広げ,深めていくことが欠かせません。
 ところが,近年,情報化社会や情報技術が進展し,間接体験やバーチャル体験が増加しています。また,都市化や少子化,地域社会における人間関係の希薄化などがますます進行し,子供たちの豊かな成長に欠かせない直接体験の機会が乏しくなっています。
 こうした状況を踏まえると,学校の内外を問わず,子供たちに対して生命の尊厳を実感できる機会を意図的に設けることが必要です。

 平成11年に石原慎太郎東京都知事は「心の東京革命」を提唱しました。これは,次代を担う子供たちに対し,親と大人が責任をもって正義感や倫理観,思いやりの心を子供たちにはぐくみ,人が生きていく上で必要な心得を伝えていくための取組の必要性を訴えるものです。平成12年8月に策定した「心の東京革命行動プラン」では,「動物や植物の世話をさせ,命の尊さを学ばせよう」と呼びかけています。このように東京都では,命を大切にする子供たちを育てる施策を推進しています。

 東京都教育委員会においても,都内のすべての公立小・中学校,中等教育学校及び特別支援学校における道徳授業地区公開講座の実施など,心の教育の充実に努めています。特に,学校飼育動物については,子供たちが様々な生き物に触れ,感じ,考えながら,生き物を愛護し,生命の尊厳を実感する教育の一層の推進に資する意義深いものと位置付け,財団法人東京都獣医師会が進める「学校動物飼育モデル校事業」を後援しているところです。

 このような中,全国学校飼育動物研究会第8回研究大会が,テーマ「考えよう!みんな みんな生きている〜子どももウサギもニワトリも〜」のもと開催され,飼育動物を通し子供たちがどのように命の大切さを学んでいくのか,そのために指導者はどんなかかわりをしたのか,を視点に学ばせていただきました。

 本研究大会の構成は,教育委員会,幼稚園,小学校,大学,獣医師会事務局からの事例発表,文部科学省初等中等教育局教育課程課教科調査官 永田繁雄先生からの基調講演,本研究会顧問の白梅学園大学教授 武藤隆先生からの発表、パネルによる発表と多岐にわたるものでした。いろいろな立場からの実践を知ることができ、本研究会に携わる方々の熱い思いに大変刺激を受けるとともに,学校での動物飼育の意義を再確認できた貴重な時間となりました。
 事例報告やパネル展示など,一点一点に対して述べることは紙幅の関係でかないませんが,特に印象に残っていることを挙げさせていただきます。
子供たちが心と体で命の大切さを実感している姿から、飼育活動が子供たちの心を大変豊かにしていることが分かりました。
そのプロセスは、次のようです。

  「動物との心地よい接触体験が子供の関心を高める。→関心が高まると世話を継続する。→世話を継続すると愛情がわく。→愛情がわくと動物の気持ちを考えたり,友達と協力して動物をかわいがるようになる。その結果,生命を尊重する態度,思いやりの心,責任感など豊かな人間性がはぐくまれる。」
 このプロセスをたどるためには,子供たちへ機会を提供することと,毎日の動物の世話の負担や衛生上の問題等の解決があげられます。
獣医師会におかれましては,飼育動物に関する診療をはじめ,動物へのかかわり方や飼育環境,健康被害の発生防止等についての指導・助言にご尽力されています。その取組から,学校飼育が学校ぐるみ・地域ぐるみの活動へまで発展した事例を伺い,敬服いたしました。

 学校における動物飼育の一層の充実を図るには,行政,学校,家庭,地域,獣医師などが連携し,意図的,計画的,組織的に当たることが大切です。今回の研究大会で得られた成果を参考に,学校における動物飼育や動物介在教育の一層の充実を図るため,微力ながら力を尽くす所存です。