H16年12月発行 全国学校飼育動物研究会会誌 会誌目次へ
「動物飼育と教育」 第一号 全
国学校飼育研究会
会長挨拶
動物飼育を通
して命を実感させ、情愛豊かな子どもを育てたい
全国学校飼育動物研究会 会長 宮下英雄
かつて、私が校長の時代、指導していた研究員の皆さんがお陰様で無事に研究発表を終えることができましたと報告に来校するとともに、研究対
象として飼育
してきたジャンガリアンハムスターをケージごとプレゼントしてくださいました。子どもは目敏いものでその光景を則キャッチ。翌日から動物目当てに校長室に
連日参上、その人数も次第に増えてきたときでした。その中の一人に、担任に付き添われ学級にうまくとけ込めない不登校気味のA児がいました。A児は、授業
が始まっても教室には戻りません。動物の世話を一生懸命続けています。そんな日が数週間続きました。ある日、A児と同じ学級に数人が、僕等も世話したいと
訴えてきました。それならA児の世話を助けながら一緒にやってくれないかと促しました。いつの間にかA児と学級の子どもたちとの人間関係を取り戻してくれ
たのです。同様にしてB児、C児も学級に復帰できました。子どもたちは動物が大好きなのです。黄色い帽子をかぶった一年生が、下校の際飼育動物小屋に群
がってなかなか帰ろうとしません。担任から注意されるありさまです。また、授業が始まってもD君がいません。みんなで学校中を探したら、なんと飼育小屋の
なかでウサギやニワトリと楽しく遊んでいるではありませんか。どの事例を見ても、動物との関わりによって、子どもの心が満たされ、癒されているのです。
全国学校飼育動物研究会が、多くの教育関係者、獣医師の先生方、教育行政等々の関係者のご賛同のもとに設立することができました。動物との
触れ合いを通
して、実感を持って子どもの心を豊に育てたいという思いや願い、そして研究会に対する期待のあらわれと強く感じています。最近の青少年の目に余る残虐性、
凶悪性、猟奇性がある事件が全国で発生しています。その報道の度に「子どもが変わった」「子どもがわからなくなった」と社会から投げかけられる言葉です。
確かに「普通の子」が問題を起こしています。「新しい流れ」の時代の到来とも言われはじめています。今までの非行、問題行動というのは、特定の子やグルー
プが、段階的に非行を重ねていました。彼ら側から解釈する「一見して普通とは違うんだ」という行動を敢えて示すことに自己存在感を吐露してきたと考えられ
ます。ですから次の行動がある程度は予測でき、いきなり凶悪性のある犯罪を起こすことが少なかったと思われます。このことを逆に考えれば、非行に歯止めを
かけられる前段階があり、予防策を講じることができたのです。
しかし、今や普通の子がいきなりキレ、凶悪性きわまる傷害事件を起こしてしまいます。成長発達の早い段階から動物飼育をすることによって子
どもの健全な
発達に寄与できたという実践報告を沢山耳にしています。子どもの成長と動物との関わりをより意図的に、より計画的に、より客観的科学的に研究することの重
要な時期を迎えていると認識しています。そのためにも、動物飼育や管理に沢山の問題をかかえている学校現場にその道の専門家であります獣医師の先生方との
支援方策の確立、正しい知識と認識による適切な指導対応ができる関係機関との連携、「命の大切さ」「生命尊重」の教育を強く推進していくことが必要かつ重
要と考えます。
全国学校飼育動物研究会の会員相互の研究実践を積み重ね、生命尊重の心を培うとともに正しい生命観、正しい自然観、更には動物飼育が地球環
境問題の解決
に繋がったり、エネルギー問題の解決にも発展寄与できる研究会を作り上げる努力をして参りたく存じます。
最後になりますが、研究会発足にあたり貴重なご講演、実践発表、ご支援ご参会をいただきました関係各位並びに共催をいただきましたお茶の水
女子大学子ど
も発達教育研究センターの各位に感謝を申し上げますとともに、今後の研究活動のご支援ご指導等をいただければ幸いに存じます。
(聖徳大学人文学部児童科学科教授)
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