獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200109-100

レス:肉骨粉
投稿日 2001年9月13日(木)12時12分 プロキオン

9月11日の 静香さんへ

狂牛病(牛海綿状脳症)について、どのように説明するか、獣医師フォーラム
の中で本年7月に話し合ったことがあります。 正確に伝えると人間への危険
性に触れなくてはなりませんし、牛肉及びその加工食品からの感染の危険にも
触れなくてはなりません。
また、病原体が海外からの輸入禁止をする以前から我が国に存在していること
も事実であり、その追跡調査が途中で放棄されてしまっていることも私は知っ
ています。

そういう人々を不安に陥れるような事柄を知らせる必要があるのかという疑問
と正しい情報こそがパニックを防いでくれるのだという理念のせめぎ合いがあ
るのです。

今回の質問の中に鶏は感染しないので骨粉を与えるという記述がありましたが、
正確に伝えると、
「実験では発病しなかったが、感染しているかしていなかは確認されていない」
と答えるべきなだと思います。

この実験は、人体への感染を否定するためにイギリスで実施されたもので、多
くの動物を用いて試験を実施したが、牛とマウス以外には感染は成立しなかっ
たと発表されました。
多くの動物というのの内訳は、豚、キヌザル、鶏、チンパンジー、緬羊、山羊、
マウス、ハムスター、猫、犬、ミンク、馬、ウサギであると伝えられています。

で、この顔ぶれを見て、実験の有効性に疑問が生じてしまったわけです。
狂牛病の原因は、羊のスクレーピーが牛に感染したものですから、緬羊が陰性
といわれても、「?」ですし、その後 猫やカモシカ(ニホンカモシカではな
くレイヨウの方らしい)の感染が知られ、ミンクでもスクレーピーからの感染
があるようです。
最も、肝心の人間への感染が認められるに至っては、感染経路次第では安全と
言い切れる動物はいないのではないでしょうか。

これは病原体であるプリオンが熱にも消毒薬にも異常に抵抗性を有しているか
らです。
プリオンは脳脊髄、脾臓、胸腺、扁桃腺、骨髄、消化管等に存在しています。
言い換えると、神経組織やリンパ組織に局在しています。
筋肉組織には関係ないようですが、末梢の神経やリンパというのはやはり少量
ながら筋肉組織のなかに存在しているのです。通常の食肉は、これら部分が掃
除されてかなり取り除かれていますので、量としては少ないといえます。
ミンチ肉の場合は、これが残っているので、ハンバーグからの感染が指摘され
たことになります。
通常の病原体であれば、充分に熱を通すことで感染の危険はなくなりますが、
プリオンの場合は、136度で30分以上の過熱が必要とされています。「
食肉」として食べるのには 過ぎた過熱になってしまいます。
また、食肉加工品の温度基準というのは、我が国場合、中心温度が63度30
分です。気密包装のものの場合は、耐熱性の嫌気性菌を想定して、80度20
分となっています。これらの温度ではプリオンの失活は期待できません。
消毒薬についてもホルマリンに6ケ月の間浸積しても感染性は失われないそう
です。防疫上いかに 手強い相手かわかろうというものです。

96年の3月末に加工肉のイギリスからの輸入が禁止されましたが、その年の
1〜3月までに270トンが輸入されており、そのうち190トンは販売済み
でした。また、輸入されていないはずのペットフードが輸入されていた事実も
ありました。骨粉もカルシウム剤の原料として入って来ていた経緯もあり、ゼ
ラチンもしかりです。

そもそも、本来の原因である羊のスクレーピー自体が81〜83年にかけて北
海道で50頭程発生を見ているのです。さらに、この疾病の発生は北海道だけ
ではないのです。今回の牛の生産農場が北海道であるといっても 病原体はど
こに存在していても不思議ではないのです。
イギリスがアイルランドが、ヨーロッパがというよりも、日本のどこの県にお
いても発生があってもおかしくはないのです。
特定の地域、特定の食品だけを注意していれば、それで大丈夫というわけにも
いかないのです。どうすれば良いという処方せんは描けませんが、ひとりひと
りが我が身の問題として考えるしかないのです。

ペットへの感染の危険は確かに存在します。これは90年8月6日付けの「家
畜衛生週報」でペットフードや動物園での発生の危険性が予見されています。

ただし、いたずらにパニックになってもどうしようもありませんから、腹を括
った冷静な対応をお願いしたいところです。
危険性を指摘するばかりで、お叱りを受けそうですが、個人的な立場では対応
策は申し上げようがないのです。その辺の事情は御理解願います。



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