獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200507-48

通りすがりの獣医師さんへ
投稿日 2005年7月6日(水)00時08分 投稿者 山下 貴史

多分…僕のカキコへの反応であろうと受け取り、レスをさせていただきます。決して都会で診療していないイナカ獣医師の山下と申します。ウリボウが来院するくらいですから。

まず、通りすがりの獣医師さんのご気分を悪くしてしまったのであれば謝ります。「申し訳ありませんでした」それと…あまり、公の場で獣医師同士がディスカッションするのはいかがなものと思うのですが…一応お答えを書くのが礼儀と思いましたので…。

先生がお聞きになった時代の欧米の先生が何をおっしゃったのかは、先生の記載にあるとおりと認識しますが、自分は開業した今現在も大阪・名古屋・東京・仙台などの様々な学術集会や講演に行って欧米や国内の先生の講演を聴かせていただいてはおります。その中で例えば、アメリカのM州立大学では跛行診断の立位検査時にマズルにマスクをつけることを必ず(ほぼ全ての症例)と言って良いほど行なっているそうです。お互いの安全(獣医師・ご家族・患者さん)を確保するためです。しかもマズルにはめるのはご家族ということでした。できない場合もあるとおっしゃっていました。そういう場合や横臥位検査時にはACPでやブトルファノールなどの痛みや反射の無くならない鎮静を行い、詳しい検査をしているそうです。PennHipの講習会でもOFAポジション等全てのポジションを鎮静下で行なうように指導されました。自分たちの一般診療での腫瘍のステージングの際にも鎮静(最近は軽い麻酔のほうが安全ですが)を必要とすることも多々ありますよね?

また、最近イギリスの一部では、全てのレントゲン撮影時に鎮静をかけないことは、虐待に値するということも言われ始めております。そしてその条例が通ってしまう可能性も大きいと聞いています。

一応、イギリスとアメリカの現状を書いてみましたが、先生の当時の質問を今の講師陣にするとこのような答えが返ってくると考えられます。

そして、日本ですね。
先生のおっしゃるように年に一度の狂犬病だけ…という子は僕の地域でもとても多いです。むしろ、動物病院にも集合注射にも行かないワンコもたくさんいるようです。「噛むから」とご家族自身が集合注射へ行くことを避けてしまう場合もあるようです。犬もですが、暴れん坊の猫さんだってたくさんいます。たかが(?)爪きりや3種混合ワクチンを鎮静をかけた上で行なう場合だってあります。なので、僕の地域も決して「来院する仔が全て躾の行き届いた”良い仔”ばかりのところ」ではないことをご理解下さい。

先生の書かれた”注射の直前にオーナーが首輪を離したため気が立っていた犬が瞬時に目の前の獣医師に噛み付いた。”ということはししまるさんの投稿にはどこにも書いていませんが、仮に先生のおっしゃるとおりだったとしても、獣医師は「ご家族が手を離さなくても首輪が抜ける可能性」とか「獣医師ではなくてご家族の人が噛まれる可能性」とか「ご家族が犬に突き飛ばされてしまう可能性」を考慮しなければいけないのでは…と考えます。

例えば、注射の針が刺さった瞬間に、犬がご家族を噛んで…ということだってありえることは、各先生も承知のことと思います。「あの先生は注射がヘタクソだ!あいつが打ったから俺は噛まれた!」とかって、なりますよ?そういう場合は、この注射した獣医師が訴訟を起こされます。他にもそのわんこがご家族を噛んだ直後にアナフィラキシーでも心疾患ででもなんでもいいですがお亡くなりになる可能性だってあります。「暴れているところを押さえつけさせられた!」と言われるかもしれません。そのくらいのことを考えた上で集合注射をなさっていないならば、今後の訴訟社会では厳しいのではないでしょうか?

ですから、「ご家族が押さえてくださる前に後からチュッっと打つ」ようなことをしてはいけないわけですよね?今回の投稿だって噛まれたのが獣医師でまだ良かったのかもしれない…保定者が一番犬の口から近い「顔」を噛まれていたら…と考えると鳥肌ものです。

でももし…先生の地域がそんなに四六時中気を張りながら診療しているような地域なのであれば、集合注射会場で「あなたの犬は臆病ですか?」とか「人を噛む可能性がありますか?Noと答えて獣医師をかんだ場合は慰謝料をいただくことになります。」とか「あなたは、自分の犬をきちんと保定できますか?」などの問診を取らないと確かに怖くて注射どころではないのかもしれませんよね。きっとフィラリアの検査時期などは、命がけですね。その辺りに関しましては、心中お察しいたします。そういう意味では自分のところは先生に比べては患者さんに恵まれているのかもしれませんね…。

当院では、基本的に全ての診療対象の患者さんの保定はVTもしくは僕が行ないます。理由は、ご家族を怪我させるわけにいかないし、自分自身も慣れない保定は怖いからです。場合によってはエリザベスカラーやマズルへのマスクとかつけますが、できない場合は、インフォームドコンセントの上で鎮静をかける場合もありますよね?

最後に「”手を離した飼主さん”には、まったく責任はない」とは言っていません。でもプロなら、自分の責任において自分の向かい合っている仕事くらいはこなしていければ嬉しいし、なんでも他人のせいにするようにはなりたくありません。そしてもちろん僕も「噛まれたくない」からこそ、動物たちを観察し、問診して、注射部位や保定方法を悩むわけです。全ての人と動物に怪我のない方法を、「どんなにおとなしい子」に対しても必ず考えておくわけです。(でも、僕も手は傷が多いですよぉ…怖い職業ですよね)

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