獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200612-45

re: 狂犬病について
投稿日 2006年12月8日(金)11時50分 投稿者 プロキオン

12月7日のビリーさんへ

>狂犬病は人が感染した際は、発症する前にワクチンを複数回打てば治るとテレビで報
 道されていましたが、もしイヌが感染したときも、発症する前にワクチンを打てば治
 るのですか?

報道の仕方もありますが、まず誤解が1点あります。狂犬病は治りません。正しくは
発病する前に「暴露後接種」をすれば、発病しないで済むことがあるということにな
ります。( 正しく何回も接種すれば、まず発病しませんが。 )
しかし、一旦発病したものは治りません。ほぼ100%が「死」の転機をとります。

犬の場合は、残念ながら治療対象となりません。理屈の上からは頻回の「暴露後接種」
で免疫が成立する可能性もありますが、「いつ」「誰に」咬まれたかをあきらかにして
いる間に、その犬自身が新たな感染源として処分した方が確実で、飼い主さんも含めて
人間に対して安全だからです。
これは、背景に生前診断が発病するまでにできないという背景があります。発病してい
る犬は100%死にますが、未発病であってもウイルスが体内に侵入した可能性がある
のであれば、その犬をそのままにしておくことは防疫上は認めがたいことです。


>また、感染してからどのくらいの期間が経つと、抗体検査が陽性反応となるのですか?

残念ながら抗体は陽性となりません。

これは狂犬病ウイルスがひじょうに神経親和性を有していることに原因があって、咬傷
後一時的に傷の部位でウイルス増殖がありますが、それ以後は、血中から消えてしまっ
て、神経組織内に逃げ込んでしまいます。
そのために免疫を担っている細胞は狂犬病ウイルスの侵入を認識したり、捕捉したりが
できないのです。すなわち、ウイルスに対する抗体が産生されないのです。

神経組織内のウイルスは、やがて脳に到達して、そこで増殖して神経組織を破壊するよ
うになります。この時に大脳皮質と呼ばれる部位が侵されるので、幻覚や幻聴というよ
うな症状が現れます。これは大脳皮質が脳の興奮を抑制する方に働く部分であり、理性
をつかさどるような働きがあるからです。感情の抑制がきかなくなるという現象ですね。
ですから、犬であれば、興奮して凶暴になるというようなこととなります。
神経組織が破壊されて、ウイルスが再度血液中に出てきたときは、唾液にもウイルスが
存在するようになっていて、他者への感染源となります。この時期が、狂犬病の発病期
であり、「興奮期」と呼ばれることになります。
つまり、発病する時には、すでに神経がやられてしまっているということになります。

成書では、「興奮期」の犬は「麻痺期」を経て2週間以内に「死」の転機をとると記載
されていますが、通常のウイルスの場合は2週間程度の期間でウイルスに対する抗体が
産生されるのですが、この疾病に関しては、ウイルス血症が認められる前に肝心要の脳
がやられてしまっていて、感染後の自然獲得免疫が成立する暇がないのです。
脳はやられてしまっているわ、抗体はできないわということになりますので、狂犬病は
死ぬしかない病気ということになるのです。
それゆえ、とにかく人間の安全を最優先するというのが、「狂犬病予防法」の目的であ
って、犬のための法律ではありません。その分、犬の飼育者に予防接種をわざわざ法律
で義務ずけて、「事前に」自分の犬は自分で守りなさいと言っているわけなのです。

野外株(街上毒とも言います)では、犬が死んでしまって、狂犬病抗体は産生されませ
んので、血液検査で抗体が検出される犬は、ワクチン株(固定毒とも言います)によっ
て作り出された抗体ということになります。
現在は、海外渡航する犬は、その前に狂犬病抗体検査が必要となっていますが、実施し
てくれる検査機関は日本には1箇所しかありませんし、私が知る限りでは世界でも8箇
所というように聞いています。
そのくらい狂犬病に関しては抗体検査ができませんし、「疾病診断としての抗体検査」
には意味がありません。
疾病診断としては、抗原であるウイルスそのものの検出が用いられています。

暴露後接種というのは、日本では咬傷後、0・3・6・14・30・90日の6回接種
となっています。
普通のワクチン接種間隔と異なって、短期間に集中しているのに気がつかれると思いま
す。この場合のワクチンは不活化ワクチンでして、血液中に意図的にウイルス血症の状
態を作り出すことを意図しています。
神経の中に逃げ込まない不活化したウイルスで、ウイルス血症を作り出して抗体を産生
し、しかも、抗体が届きにくいとされている神経組織の中にまで抗体に届いてもらうく
らい大量につくる必要があるということなのです。

このように、狂犬病のウイルス特性と暴露後接種の意味を考えると、犬同士の咬傷事件
の場合、咬んだ犬も咬まれた犬も、双方ともそのままにしておくわけにはいかないので
す。
「狂犬病予防法」が「狂犬病予防員」を規定しているからには、ワクチン接種を実施し
ている狂犬病予防員が、この法律に背くわけにはいかないでしょう。
けりーずはうす先生がご紹介くださっているところが、この法律が対処として定めてい
る部分です。
飼い主さんにできるのは、「事前に」ワクチン接種を済ませておくことだけです。





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