獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201401-148

Re4:生後20日のうさぎの赤ちゃん
投稿日 2014年6月23日(月)11時09分 投稿者 プロキオン

ウサギの飼育というか分娩は経験しておられますか? それとも初めてということになるのでしょうか?
ご存知かもしれませんが、ペットして飼育されているウサギは、アナウサギの改良品種であって、「交尾排卵」とこれに続く「子宮内浮遊卵」と「着床からの発育開始」という妊娠生理があり、分娩後も新生児は蓋をされた巣穴の中で1日に1回だけの授乳で、それ以外の時間は親も巣に近づかず放置に近い状態で育てられます。
この1日に1回だけの夜間の授乳ということが案外知られておらず、育児放棄と受け取られてしまって、過去にも大宮の小学校において困惑した教師によって新生児のウサギが生き埋めにされてしまったという事件がありました。(この事件が報道されたことによって、学校飼育動物に対する獣医師達の支援活動が始まったりした経緯があります。)

「交尾排卵」については今回は省略しますが、「子宮内浮遊卵」と「着床からの発育開始」とは、ウサギの受精卵が受精直後から発育が開始されるのではなく、しばらく時間子宮内を浮遊している状態があって、その間の時間は発生が始まっていない状態があります。受精卵はそれぞれがある程度の時間浮遊しているわけなのですが、その後子宮の壁に着床して、そこから胎盤が形成されて母親からの栄養の供給を受けるようになって本格的な発育がスタートしていきます。
この子宮への着床する時間というのが、個々の受精卵によって異なるために同じ1回の分娩においても生まれてた子ウサギに驚くほどに大きさに差が生じることとなるわけです。

一旦、陣痛がおきて分娩が始まってしまうと、母ウサギの体外で自力で生存していくのには不十分な発育の子ウサギであっても、やはり分娩されてしまいますので、そのような子ウサギは自力で母乳を探して生き残れるものと、力足りずに死んでいくものとになります。そうして亡くなってしまった子ウサギは、巣穴を汚して生存している子ウサギの健康を脅かす存在となりますので、母ウサギは食べてしまって巣穴の清潔を保とうとします。母ウサギにとっては、巣穴の外やもっと広い屋外で自力で生きていくことができるであろう子ウサギこそが大切であって、そこまでに至らない子ウサギは育てるべき我が子とはなりえません。それは被捕食者であるウサギの採用した「沢山産んでとにかく誰か生き残って」という戦略なのでしょう。
かかる状態こそが、ウサギの分娩と繁殖ということにつきると思われ、ウサギの分娩があったのであれば、とにもかくにも母ウサギが周囲を気にすることなく子ウサギへの一見無関心な態度と夜間にこっそり行われる授乳を実施できるように努めるべきかと考えます。
これができないようなケースですと、母ウサギが子ウサギの哺育をあきらめてしまって、次の繁殖にそなえるために生存可能な子ウサギまで殺して食べてしまうということにさえ繋がることもあります。
母ウサギが落ち着いて子ウサギを育てる事ができる環境があるか否かということはとても大事な事と言えます。


>動物病院で飼われているうさぎの盲腸便ではない普通のうんちを渡され、白い子にも食べさせるように言われたのですが、効果はあるのでしょうか?

私はあると思います。草食動物はお腹の中にプロトゾア・原虫・細菌等の微生物を飼っており、これらの力を借りて植物から栄養を得ています。これらの微生物が減少したりバランスが崩れるということは即消化管機能の低下という形で草食動物を苦しめることとなります。まして、これら微生物の死滅は宿主である草食動物の死へとつながりかねないのです。
では、これらの微生物がお腹の中のどこにいるのかと言えば、「前胃動物」である牛や羊は胃液を分泌しない第一胃であり、「後腸動物」である馬やウサギは盲腸ということになります。
ただし、盲腸で微生物による植物の分解や発酵が行われるという事になりますと、その栄養を吸収するには盲腸以降の結腸や大腸では少々役割が違っていますし長さも短いので不十分ということになってしまい、栄養不足となってしまいます。そのためにこのような「後腸動物」では「食糞」という行為によって栄養を摂取するということが必要になってくるわけなのです。ウサギで知られている盲腸便というのは、この代表例であって、栄養や体内でつくられたビタミンの再摂取において欠かすことはできないものです。

そして、栄養だけでなくもう1点大切なのが上記にあげた微生物の補給です。生まれたばかりの子ウサギは、胎内にいたためにこれらの微生物をお腹の中にもたずに生まれてきています。そのままでは植物を食べても栄養とすることができないままということになってしまいますので、これらの微生物を補給してあげる必要があると考えられます。

牛でも疾病で治療しているうちに、これらの牛にとって必要な微生物が減少してしまって消化機能の減退が起きてしまいます。そのようなときには、健康な牛の第一胃からゴムホースで胃の内溶液を吸いだして、病気の牛に飲ませてあげるという治療も実施されます。
牛は「前胃動物」ですから第一胃の内溶液となりますが、「後腸動物」であるウサギであれば、糞ということになります。
ウサギでは盲腸便が有名ですから、そちらの方へ目が行きがちですが、その他の食糞をする動物であれば、普通の糞で食糞が行われており、微生物の補給が目的であれば、糞の種類に拘る必要はなく、大切なのは健康な動物由来であるかどうかという点です。
消化管機能に問題のあるウサギに対してであれば、私は意味のある行為だと思いますが。


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