獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-201501-99

Re3:ニューキノロン系抗生物質について、ご教示下さい。
投稿日 2015年3月27日(金)12時00分 投稿者 プロキオン

すでにムクムク先生からレスがついていて、投稿者さんからも謝辞がありましたので、今更の感が有りますが補足的に。


1) ニューキノロン系耐性菌が増えている「印象」はありますか?

ニューキノロンに対して薬剤耐性が増えているという印象は、私にはまったくありません。
かつて県で病性鑑定の仕事をしているときには、「薬剤感受性試験」を日常的に実施していましたが、当時はキノロン系抗生物質というとまず感受性がありませんでした。分離された細菌によって感受性・耐性については成績はさまざまとなるのですが、耐性菌の出現というのは、やはり憂慮されることであって、耐性菌の出現しにくい抗生物質が常に要望されていて、ニューキノロン系抗生物質はそんな期待を背負って開発されています。
作用機序としては、細菌のDNA合成阻害となりますが、これは本来は「静菌的作用」を有する抗生物質の範疇となりますが、能書にはいずれも「殺菌的に作用する」と記載されています。DNAが合成阻害が主たる作用ですので、緑膿菌やマイコプラズマにまで及ぶ広い抗菌スペクトルを有し、かつ、大変効き目のよい薬剤となっています。
また、耐性菌の出現を防止するために、まず薬剤感受性試験を実施して必要があったときの選択とされていますし、その連用もオルビフロキサシンで8日、エンロフロキサシンで10日までとされています。(膀胱炎が相手となりますと、これだけの期間で良いのかと言う意見は出てくるとは思いますが)
なにゆえ、これだけの期間かと申しますと、薬効動態のためです。体内に吸収分布して濃度が高くなるのが5日くらいでピークに達し10日目以降は急速に下がっていくことになるからです。切れ味のよい薬剤なのでポンとつかってさっと引き上げて欲しいということになるのでしょう。

2) ニューキノロン系を第一義選択する獣医さんは多いのでしょうか?また何故でしょうか?

膀胱炎に関してで言えば、ニューキノロン系抗生物質は、体内における代謝を受けにくく
90%くらいがそのままの形で膀胱に到達します。このために細菌性膀胱炎がまっさきにあげられる摘要となっています。
で、ここで上記の薬剤感受性試験を実施して使用できる抗生物質がなかった場合に適用しなさいという能書の指示と異なってくるわけなのですが、臨床医にとっては感受性試験で時間とお金を使っているよりは、最初から効果が高い薬剤を使用した方が話が早いですし、よくならないからと他の病院へ移られてしまったりするのは避けたいところです。当然、他の病院からまわってきた患者さんであれば、なおのこと効く薬を最初から使いたいわけです。

3) 一般的に、(それぞれの病院で)抗生剤を処方されている患畜のうち、どの程度の割合の患畜が特定の抗生剤に耐性を示していたら、別の系統の抗生剤を第一義選択するようになるのでしょうか?

どの程度の割合という質問ですと、ちょっと質問の意図を判じかねます。同じ患者であれば効果の無い薬剤を使い続けるには、他に効果的なものがないとか、その薬以外は使用できないというそれなりの理由が必要になります。
特段の理由がないかぎり、効果の期待できない薬剤を使い続けるという事の方が理解できないのですが。
そして、Aという患者には効果がなかったからBにも効果がないだろうという発想は私にはありません。それぞれが別の患者ですので、なにもしないうちから決めて掛かるということはありません。それをやってしまったら使える抗生物質なんてすぐに無くなってしまいますので。
ちなみに私の膀胱炎の第一選択薬は、ニューキノロンではありません。

4) 個体として、特定の薬剤に耐性を示した菌に一度感染すると、今後も同様の菌に感染する確率が上がったりしますか?「前回は前回。今回は今回。」と認識しておいて間違いは無いでしょうか?

いえいえ、今後も同様の菌に感染する確率があがるというよりも、その菌がずっといると考えるべきなのではないでしょうか。
いかに効果的な抗生物質を使用したからと言って、体内や体表にいる細菌を0にすることなどできません。細菌の増殖を抑えて病的な状態を押さえ込んだというべきでしょう。
ある成書によれば、尿石症の患者の場合尿中の結晶が消失してからも3ヶ月の期間は投薬を継続するべきである旨が記述されていました。膀胱炎のコントロールには、そのくらいの努力が求められることになります。膀胱炎とは、そういう病気であると考えていますし、膀胱炎にかぎらず、そのようなことはあります。
「前回は前回。今回は今回。」という考え方は、一つの思い込み・先入観念に囚われないという意味であれば、そのとおりだと思います。


ニューキノロンは、Rプラスミドによる薬剤耐性の伝達が起きないようにと意図されていますので、そう簡単に耐性菌が広がるとも思えないのですが、その細菌が何であって、どこからどのように出現したのかはひじょうに大切なポイントになるのではないかと考えます。

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