獣医師広報板ニュース

災害と動物掲示板過去発言No.0700-201107-13

Re:「警戒区域の犬ねこに、これから何が起こるか」への反論
投稿日 2011年6月12日(日)13時20分 投稿者 プロキオン

獣医さんのご意見を伺いたいとありますが、これは不特定の獣医師に広く意見を求めるということになるのでしょうか? 一応、私も獣医師ですので、一人の獣医師の意見として。

>明らかな科学的な間違いがあります。
 「今までに高濃度放射能汚染区域から救い出された動物達からは無量又は毛から微量の放射能しか検出されておらず洗浄方法で汚染問題を解決する事ができます。」

あながちの間違いとも言えない点が微妙なのではと思います。つまり、放射線量が検出されないか微量であるというのは、そのとおりではないかと思います。ただ、洗浄で解決できるという考え方には、私も賛同できかねます。
洗浄するということは、外部被ばくしている放射能(放射性物質)を動物から、他所へ移すということであって、その洗浄した水の行方には、洗浄した人間に責任があります。放射能は無くなったわけではありません、存在している場所が変っただけのことです。その放射能の行く先について知ったことではないというわけにはいかないでしょう。
今、東京をはじめとして関東の各県で、母親達が身近な場所の放射線量の測定を自分達で始めています。大気中の放射能は、広く拡散して飛来しており、雨によって大地に集積され、局所的には避難するべきではないかというレベルを超えてしまっているところも出てきています。都の終末処理場においては、そんな放射能が集まってきていますから、測定された放射線量はかなり高濃度であって、1年間その線量が継続することは看過して良い事とは考えられません。
洗浄すれば解決するという考え方は、放射線と放射能について理解しているとは思えませんし、自分のところにいる動物さえ助かればよいということになりかねません。放射線や放射能を恐れることがないというのであれば、洗浄せずにそのまま飼育していただいたほうが御近所さんには迷惑をかけないで済むのではないかと思います。

>警戒区域内の犬猫は高濃度に体内被曝している筈。
 除染は難しい。
 原発作業員の方々の内部被曝測定さえ、おいつかない現状で、被曝ペットの1頭1頭の内部被曝測定が実施されるかどうか?
 被曝動物は放射線を放出する。無造作に取り扱って良いものではない。

そう、こちら内部被ばくの問題は、おそらく考えてもいないのか、あるいは、目を瞑っているということになるのだと思います。まあ、分かっていてもどうしようもないということだと思います。
報道の方に漏れ伝わってきている内部被ばくの人数も尋常ではありませんし、都内でも母乳の汚染が報じられて以来、自分の母乳を検査して欲しいという依頼がくると伝えられています。母乳が汚染されているというのは、その女性が内部被ばくしてしまっていることに他なりません。
原子力発電所から離れた地域でも、食品を介しての内部被ばくは起こりえることであって、食品のチェックを厳しくしても、大気に由来するものもあります。こちらは、もう距離をとるしかありません。
当然ながら、原子力発電所周辺にいた動物を対象とするなら、内部被ばくが無いと考える方に無理があるでしょう。
周辺における斃死体の片付けが進展しないのも、放射能のことを考えれば、当たり前のこととも言えます。焼却すれば、上昇気流にのって遠くまで飛散して汚染を広げてしまいます。どこか1箇所に纏めて封じ込めるしかありません。
1箇所に封じ込めようとすれば、そこが高濃度放射能集積地帯になってしまう。ジレンマなのでしょうし、その作業に借り出される作業員を集めなくてはなりませんし、その健康問題に責任を負わなくてはなりませんから。
我が国には、核燃料の廃棄保管をするべき施設がありませんので、汚染された水・瓦礫・斃死体の持って行き場がありません。処理のための指針がありませんし、その作業に携わる人間の数が足りません、それを見越して安全のための基準値に手をつけたにもかかわらず、その基準が守れるのかも心配になる状態です。
私は、まず福島について言えば、周辺住民のために、人的な投入は原子炉の封じ込めとその後の復興に当てるべきだと考えています。

動物をどうしても見捨てて置けないという人は、浜通りから離れた福島県内にまとめて飼育する施設を造るべきだと思っています。そこで、毎日1頭ごとに排泄物の測定をして、生涯をそこですごしてもらうということになります。そして、亡くなったら、その亡骸は、放射能の保管場所へ送り届けるということです。
本来は、原発周辺から外へだすべきではないのは、言うまでもありませんが、それでは現地に滞在して毎日動物の世話をするための人間が出てきてくれないでしょう。県外に施設を造るというのも、造られる側の理解が得られるとも思えません。(おそらく、福島県内でも理解を得るのは、相当にむずかしいと思われますが。)
1頭1頭の内部被ばく線量は、さほど大きな線量ではないと予測しています。これは、被ばくをを起こす放射線源の特性がそのようになるであろうという予測になりますが、逆に10年20年で半分に減少してくれるとも思えません。だから、拡散させずにまとめておかないとならないと考えているのです。
これが簡単にまとまる話しかとというと相当に難しい話しですね。より、現実的な選択をとる自治体の方が多いでしょうし、「見捨ててはおけない」と言う人の方でも、10〜30年先を見据えて活動して行くからと、自治体と話ができる人と言うのもいないのではないかと思います。
自分達のシェルターで引き取ると簡単に考えておられる方達の場合、残念ながら、放射線と放射能がことが理解できているように見受けられません。これは、実際問題として、容易なことではありませんし、また、10年とか30年先まで、安全な取り扱いをしていただけるかに疑念を感じざるを得ません。本当にそうしたいのであれば、まず、施設周辺の住民や、自治体や政府に信用してもらうために何をしなくてはならないのかが俎上にあがっていないとならないはずです。
そこを欠いているからこそ、受け入れられないのだと思います。誰かが、引き取って連れ出してくれるのであれば、自治体にとってはありがたいことです。それを認められないような点がままあるから、なおのことまかせられないのだと思います。

一様に命が大事と仰られますが、その大事な命がいとも簡単に失われていくのも現実の話ですし、命にはその重さに差異があって、値段さえついていたりします。
例えば、太地町のイルカ漁に対して、シーシェパードが町に乗り込んできて妨害行為を働いています。シーシェパードは、アメリカでできた団体ですが、オーストラリアを拠点として日本の南氷洋捕鯨の実力妨害をしています。オーストラリアは、妨害船母港として協力していて、国民もクジラ漁に反対の意見が多いようです。でも、そのオーストラリアでは、年間数千頭のコアラを銃殺しているという話もあります。これなど、本当に動物の命など人間の都合しだいなのだと思います。
他国の内政に関わる事ですので、シーシェパードのように抗議に行けばよいなどとは申しませんが、結局、マスコミを介して話題になっているからこそ、「動物の命も大事」と言えるのではないかと考えています。

# コアラの銃殺の話は、角川文庫の「動物の値段」という本の中に記載されている話しです。日本の動物園では、コアラを飼育するために年間維持費が1200万円くらいとなっているようで、かなりの負担となるようです。
オーストラリアでは、野生動物の商業取引を認めていないため、販売輸出はできません。日本に来ているコアラは、すべて友好の証としての寄贈なのです。 ですが、国内で増えすぎたコアラを同時に間引いてもいます。
「殺すくらいなら、売ってくれ!」、ペットとして輸出するよりも、銃で撃ち殺すことの方がよいということの意味がわからないというのが、その著者の言い分でした。
著者は動物の輸入業者ですから、その言い分は無理もないかもしれませんが、日本では貴重な動物と考えられているコアラですら、そのような運命に遭遇する個体は少なからず存在するということになるようです。
間引きを実施している州政府に言わせれば、きっと、「それも保護」だという台詞が返ってくるのでしょうね。



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