獣医師広報板ニュース

災害と動物掲示板過去発言No.0700-201107-32

Re5:牛肉のセシウム汚染
投稿日 2011年7月18日(月)12時59分 投稿者 プロキオン

まず初めに生産農家には罪はないと思っています。同様に肉を販売したお店についても同じです。まるっきり責任がないとまでは申しませんが、両者ともに被害者としての部分の方がかなり多いと考えています。両者ともに、補償を受ける立場にいると言うべきでしょう。

予想していたように「直ちに影響はない」とか「1回や2回食べたところで実害はない」というような説明が出てきています。
私は、これは嘘だと思っています。内部被ばくと外部被ばくを同列に語ることは、できません。内部被ばくは、どのように微量であろうと、放射性同位元素が体外へ排泄されないかぎり被ばくは継続されるからです。結果として、より大きなダメージを生体に与えるからこそ、従来から内部被ばくが問題視されてきているのです。
平時であれば、内部被ばくをことさら重要して注意を喚起しているにもかかわらず、いざ、その心配が出てくると同列のもとして扱うという説明には賛成できかねます。

通常、放射線の防護というのは、「距離」と「隔離(遮蔽)」という概念で対応することを以前申しました。放射性同位元素というのは、半減期が経過しない限り、無くなる事がない物質ですから、放射線源から距離をとって近づかないようにするか、その放射線を遮蔽できる場所に隔離してしまうかしか、対処する方法はありません。
外部被ばくであれば、線源のある場所に近づかないとか、付着した元素であれば、洗い流すというような方法をとれば、放射線を浴び続けることを防ぐことができます。
しかし、一度、体内に入ってしまうと、その元素が体の中から排泄されるまで放射線に曝されている事になります。仮に0.1マイクロシーベルトの線量を体内被ばくしているとなると、1日では2.4マイクロシーベルトとなり、1ヵ月後には72マイクロシーベルトであり、1年後には876マイクロシーベルトに達します。一般人の年間限度が1ミリシーベルトですから、この値にかなり近づいてしまいます。そしてセシウム137の半減期は、約30年ですから、体内被ばくという現象がいかに問題であるかがわかります。

もっとも、ここまで話してきた時点で、線量が違うとか、セシウムは容易に体内から排泄されるはずという意見も当然出てくる事でしょう。
ただね、体内被ばく線量というのは、ハッキリと言って分からないのです。体の各組織において臓器特性というか吸収する線量が異なるからです。同じ線量を浴びても、組織によって影響が違うのです。そのために物体から発せられる線量をベクレル単位で表現しているのです。これには、どの組織であれば、このくらい吸収されるからという係数処理をしなくてなりません。もう何年にもなりますが、その臓器特性を記した獣医学雑誌があったのですが、これが見つかりません。あれば、もう少し計算ができるところです。
また、セシウムは30日くらいで排泄されると説明されていますが、これも誰もが同じではありません。セシウムの体内動態は、事前にどのくらい安定したセシウムがとりこまれているかに依存します。事前に充分量の安定同位元素して摂取されていれば、放射性同位元素のセシウムは、ほとんどが取り込まれること無く排泄され、まるっきりなければ、その多くが体内に留まるということになります。早い話が、どのくらい経過すれば心配いらないということではなく、個人個人によって差があり、確認するためには毎日排泄物をチェックしているしかないというのが本当のところなのです。

ヨウ素131について、事故の際にヨード剤を服用するという対応策があります。これも放射性ヨウ素を体内に摂取してしまう前に、安定したヨウ素を薬剤として摂取しておいて体内に蓄積されないようにという策です。甲状腺にとりこまれるとなかなか出て行ってくれないために、このようにするわけです。ヨウ素131の半減期は8日間ですから、セシウム137の30年と比べれば、こちらこそ心配する必要は無いという理屈になります。しかし、実際には体内被ばくを防ぐという観点からヨード剤の服用が推奨されているのは、なにも日本だけのことではありません。
事実、チェルノブイリでは、今もって甲状腺癌や白血病の問題は終わったことになってはいません。
セシウムは自然界では、あまり存在していない元素ですから、薬剤の形で事前に摂取しておくという策はむずかしいようです。ですから、一度口に入ってしまったのであれば、後からでは方策がありません。だから、パニックを起こさないように安全だとか問題ないと言うしかないのです。そこまでは理解できますが、何回までならというような話では決してありません。本当は、1回だって口にして良いということではないのです。

体内被ばくを恐れろというのではありません。体内被ばくがあってはならないことであって、被ばくしないようにしなくてはならないという事です。当然、その責を負わなくてはならないはずの核の推進者が、体外被ばくと体内被ばくとを同じような扱いで語ることが不誠実だと考えているのです。
今朝の某ワイドショーが取り上げていた内容に、「ただ不安がるだけの主婦には芸能人に説得させる」とか「事故があったピンチの時こそ、関心がこちらに向いているので、説明をするにも効果的である」とか、自説展開に有利なチャンスと捉えている節が伺えるマニュアルが存在していたという放送内容がありました。九州電力の対応とまったくいっしょのように思えます。
登場する専門家は、安全である、問題ない、を繰り返します。マスコミもパニック防止のためにこれらの意見を取り上げ放送します。が、それは本当にそのまま信じて良いのでしょうか? 何故、平時の説明と異なることを言わなくてはならないのでしょう。駄目なものは駄目、少なくても体外被ばくと体内被ばくは同じものではない。体内被ばくの方がより問題は大きいと言えます。

原子力発電所の作業従事者の被ばく限度線量も250ミリシーベルトに引き上げられました。関係のない一般人の限度も1ミリから5ミリシーベルトにしようと言われています。このような引き上げが行われる事こそが不信を招くのです。そこまで汚染が進行すると予測しているのでしょうか? 安全であり問題がないのであれば、そういう策を弄する必要はないのではないでしょうか。私は原発反対派ではないのですが、推進派の人達の発言をそのまま信用することはできなくなっています。

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