獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200411-49

プータロさんへ
投稿日 2004年11月19日(金)18時07分 投稿者 だんちひ

獣医師のだんちひ、と申します。
まだ新しい家族になって日の浅い生後2ヶ月の子犬だそうですね。
まずはその子犬に「その家のルール」を教えてください。
やれ服従性がどうのとか、コマンドがどうのとかはあえて申しません。
その子が大人になった時、どうすれば犬・人ともに困らないで生活できるのか?
この先、10年以上共に暮らすのですから、よく考えてみてください。
相手は人ではありません。犬です。残念ながら。
「今はかわいい子犬だからこんなことしても良いけど、大人になったら、もうしては駄目だよ」。
これでは犬は混乱するだけです。「今まで良かったのになぜ駄目というの?」と。わからないのです。今まで許されたことが何故いきなり駄目なのか、が。
初めから「して良いこと」「してはいけないこと」を決めて統一しておいてください。
たとえば「人に飛びついてもいいのか」「人を噛んでも良いのか」「盗み食い・拾い食いはいいのか」「ひとりのときに騒いでも良いのか」などなどです。
特に、実際にその子をこれから診察していく獣医師のひとりとして申し上げますが、まずその子をコントロールできるようになってください。
大抵の飼い主は犬にあしらわれています。それでは将来、問題になってしまうのです。
つい最近、「犬を飼いきれなくなった。処分したい。」と飼い主から相談がありました。
子犬のころから知っているのですが、犬に問題、と言うよりも飼い主側の態度が問題なのでした。
反抗的な態度いわゆる「甘噛み」(私は「犬が甘えて噛む」などと思った事は無いが)や唸り声が見られたので、幼い頃からしっかり教育するようにと常々言っていました。取り返しのつかないことになるから、と。
飼い主は「聞こえないふり」でした。多分、私の言い方が悪かったのでしょう。
やがて大人になり、自信をつけた犬は家族を本気で噛んで従えようとします。
ここまできてやっと気がついた飼い主は「訓練士」に依頼(結局、頼まれて私が手配する羽目になりました)、再教育を試みました。
しかし、「犬に問題があるというよりも、飼い主側の態度が・・・」と言う訓練士のコメント。
この犬、訓練士の前ではとても大人しく全く問題が無いのです。
しかし飼い主一家全員はこの犬が怖くてたまらない、腰が引けている状態なのです。
飼い主側にもその点を訓練士ともども何度も伝えましたが、改善の為の努力無し。
何回目かの救急車騒動の後ついに・・・となりました。家族の誰もその犬と関わりたく無くなったからでした。
相談されたとき、無駄だろうとは思いつつも考え直すように言いましたが・・・。
このような犬は初めてではありません。さらに悲しいことに「予備軍」が何頭もいます。
それは大型犬だからでしょうって?いやいや、こうなるのは小型犬のほうが多いのですよ。
「小型犬は小さくて可愛い、だから飼い主が犬に甘くなって、ということなんだろうね」と親しい獣医師や訓練士と話題になることもあります。
それはともかく、犬が子供である期間は本当に短いです。くれぐれも、あとで後悔しないように飼ってください。
特に「子犬の愛情表現だから」と甘噛みを大目に見ることは止めてください。
子犬は人間(飼い主)を試しています。
どこまで強く噛んだら相手が許してくれるかどうか、と。その時にこの相手はどんな反応をするか、と。
親犬自身も子犬が歯を立てれば怒ります。唸って素早く噛みかえします。(この方法を応用して噛むのを止めさせる技もありますが、反射神経が要求されますね)
咥える(歯は立てない!)のと噛むのは違うのです。
子犬の愛情表現は別にあります。
私自身、大型犬の飼育・繁殖を手がけましたがその点は十分に注意しました。
大型犬は成長が早いので、一日も早く「していいこと・いけないこと」を教えないと事故が起きます。生後3ヶ月で10数キロです。その辺の柴犬(成犬)並の大きさです。顎の力はもちろん、体力も半端ではありません。(勢い余って頭突きを食らっても本当にきついです。)
余りこのようなことは言いたくないのですが、個人的には「駄目犬」「問題犬」が増加したのでなく、「飼い主側(の態度)が問題」というケースが90%以上だと思っています。
ただ、飼い主側はそれを認めたくない事が多いようですが。
最後になりますが、トイプードルは相当頭が切れる(賢い)犬種です。
だから飼い主がよく振り回されています。(飼い主本人がそれで良く、人に迷惑にならないならかまいませんが。)
一人で寂しくないようにお人形を入れているそうですね。
私ならば、「一人遊びよりも、人間と遊ぶ方が楽しい」と教えると思います。
「人間(飼い主)は厳しいときもあるけど、楽しいこと、面白いこと、美味しい物をくれる存在だ」と教えるのです。
だから玩具を与えるときはいつも人間(飼い主)といるとき。
犬との信頼関係とはそういった日常の生活を通して築いていくものだと思いますよ。
だらだらと長い文章になりましたがご容赦ください。
私はこんな理由で処分される犬はいくら他人の犬とはいえ、もう見たくないのです。皆、幸せで平穏無事な一生を送ってほしいのです。

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