獣医師広報板ニュース

ネコ掲示板過去発言No.1200-200011-88

ワクチン接種をめぐる論争には別の見解が存在しています
投稿日 2000年11月27日(月)12時47分 プロキオン

ワクチンの接種を頚部皮下から肩甲骨皮下にかけて接種するのは、そこが猫に
も獣医師にも一番安全だからです。
当該部位は皮膚の伸展性も良く、そこそこの量の薬液を入れても痛みを伴わな
ず、体腔のスペースを確保しやすく、薬液吸収が無理なく行われます。また、
皮下体幹筋肉群によって、より深部への外傷を防ぐことができます。
獣医師にとっても、猫に噛まれなくて済みますしね!

舐めてはいけないという理由からでしたら、筋肉注射も背中へ接種しなくては
なりませんよ。皮下投与では刺激性が強く痛みを伴う薬剤であれば、筋肉の厚
い部位が注射対象になります。この場合は神経や血管の走行している位置を避
けて注射する必要があります。これは筋肉注射をする際の確認事項のはずです

今回の書き込みにあるワクチンの接種間隔をめぐる提言は、1998年にアメ
リカ猫臨床医協会や猫アカデミーが新たなガイドラインとして提言したことが
きっかけのはずです。(最初の提言はさらに4年程遡ります)
この試験は15頭の子猫にある1種類のワクチンだけを投与して4年後、5年
後のワクチンの有効性を調べた第1期とその後試験に供した猫の中の9頭をウ
イルスに暴露して感染するか否かをしらべた第2期とからなっています。

結果をいうと、抗体価が陰転するのが確認されたのがこの4年目や5年目であ
ったため、それまでは大丈夫だろうという判断のようです。
さらに、暴露試験では、鼻気管炎が有効率52%、カリシウイルスが63%で
あったそうです。

問題点は、とりあえず2つあって、1つは試験供与頭数が少なすぎることです。
。1頭の発病が有効率に与える影響が大きすぎて、数値をそのまま受け取るこ
とができません。
2つめは、ウイルス暴露が猫達を7年飼育したのちに実施されているのですが、
病原体から隔離されたSPF施設で猫が飼育されていたことです。換言すると
我々が日常診療対象としている猫達と比べて、条件が良すぎるのです。逆に言
えば、それだけの環境で暮らしていても半分の猫は感染発病してしまうのかと
いうことです。

したがって、ワクチン接種間隔をめぐっては同じデータを見ていながら、まっ
たく逆の見解が存在しています。このデータからではワクチンの接種をもっと
頻繁にするべきではないか、少なくとも3年間隔で良いという結論は出て来な
いという見解もアメリカには存在しているのです。

そのためか、アメリカ動物病院協会の会員のうちで、接種間隔の延長を受け入
れた病院は6%とのことだそうです。カナダ獣医学会でも98年4月の時点で
プログラム変更に対しては不支持の見解だそうです。
今回のワクチンプログラムの変更についての提言をめぐる論争を静閑している
獣医師の意見で多いのは別に収入が減るからというのではなく、自分自身及び
自分の患者にとってベストと考えられる選択をするだけという考えが主であり、
そのためには、病院の独立性が優先するということなのだそうです。

そもそも今回の提言は「ワクチン接種肉腫」の防止という観点から始まってい
るわけなのですが、アメリカにおいてワクチンを生ワクから不活化に切り替え
てから多く見られるようになったことに起因しています。
この肉腫は1万頭に1〜3頭とも言われている反面、1年間に20頭も診たと
いう獣医師もおり、ある銘柄のワクチンを別のものに変更したら、なくなった
という話もあるようです。しかしながら、この銘柄は危険商品とはみなされて
おりません、他の獣医師のところで再現性がないからです。
その一方で、この肉腫には劣勢遺伝が関与しているのではという報告も散見さ
れてきています。
「肉腫」というのは免疫反応であり、創傷や炎症の治癒過程に生じる「肉芽組
織」とは異なります。ワクチンや猫本人の問題であろと、これに対する防止作
としては他にアプローチ方法があるように思います。

万一、肉腫が形成された場合早期であれば、切除は可能です。切除のマージン
(のりしろ)も充分とれると私は思います。これはね、相手が肉腫であるから
限界が不明瞭であり、充分なマージンを確保しないと切除しても再発の可能性
をのこしてしまうことになるのです。因果関係が明らかであるのなら、様子を
みていることはないということなります。

私は、この問題においては当分静観です。プログラムを変更しようとしまいと
肉腫が出る猫はでます。注射部位を変更しても猫そのものが変わるわけではあ
りません。ワクチンに限らず全ての注射が禁忌といえるのです。これではその
猫が当面得られるであろう利益の否定に繋がりかねません。だから、私は必要
な治療は実施します。
患者がそういう猫であると判明したのなら、内服薬による治療になりますが、
その猫の遺伝子が拡散しないように努めることの方が私には大事です。
その患者にとって、今何が必要なことであるかを考えることの方が私の性に合
っているかな?

ワクチン接種肉腫の問題はなんか別の政治的な関係があるようで、あまり積極
的になれないという理由もありますが。


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