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「真相」    
横山秀夫  

    
この手だけは、ずっと繋いでいたい。
『半落ち』の著者が照らし出す「人間」と「犯罪」
一つの事件が終わった後に、 人の心の事件が始まる。

事件の後に残るものとは何だろう。
そんな漠とした思いが、この連作集の出発点だった。
事件とは、死者にとってのドラマではなく、
死者を取り巻く人々の哀しみや懊悩ーー。
そうだとするなら、事件が終わった後にこそ、
人の胸を焼き焦がす「真の事件」が頭を擡げる。(帯より)


表題作を含む5編の短編集です。
短編集が苦手な私ですが、横山さんの短編は、読んでいても飽きがきません。
それどころか、今回の作品たちは、皆、胸が痛くなるような緊迫感があります。
帯にもあったように、これらは、一つの事件が終わった後の人の心を描いています。
避けようにも避けられない事件の後の生活の方が、実は大変だったりするのです。

・「真相」10年前息子を殺した真犯人がやっと警察に逮捕された。この時の来ることを悲しみにつぶされそうになりながら待った父、篠田。しかし、意外な事実が判明する・・・。まあ、仕方ないです。人間には多面性があるのですから。でも、父親の気持ちを考えると切ないですねぇ。

・「18番ホール」そりの合わない上司との確執に悩んだ樫村は、圧勝確実と言われて、村長選挙に全財産をなげうって挑むのだが・・・。誰も知らない彼だけの秘密。当選確実と太鼓判を押され安心していただけに、焦りが焦りを呼ぶ彼の苦悩が、手に取るように分かり、読んでるこちらまで頭がクラクラしました(^^;。

・「不眠」会社をリストラされた山村は、ハローワークに通う傍ら、睡眠障害薬の実験のアルバイトに通っていた。そして、自身が睡眠障害に陥り、眠れないまま、早朝の散歩をしている時に見た物は・・・。幸せそうな家族の裏に潜む闇。リストラサラリーマンの悲しみ。

・「花輪の海」空手部に入部した大学1年の城田は、夏期合宿に参加し、先輩達の激しいしごきの中、極限状態にいた。そんな時、ある事故が起こる・・・。これも、辛かったです。でも実際この手のしごきの話は、たまにニュースにもなったりするわけで、当事者の心の傷は深いでしょうね。

・「他人の家」強盗致傷の罪で7年の実刑を受けた貝原に世間の風当たりは冷たかった。しかし、降ってわいたように、彼らに幸運が転がり込んでくるのだが・・・。うまい話には気をつけろ。というところですね。でも、ネット社会は、こういうところにも、影響を及ぼしているわけですね。便利ではありけれど、生きにくい時代でもあります。 (2003.11.15)