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「退屈な殺人者」 
森下 香枝 






人生で印象的なことは
人を殺してしまったことです
「週刊文春」記者による徹底取材ノンフィクション (帯より)



題名から、気軽な推理小説かと思って手に取った本です。
しかし、全く違いました。
実は、2000年に実際に起こった殺人事件のノンフィクションだったのです。
もう、6年近く前のその事件。そのセンセーショナルで、異様な事件は、私も、まだ頭の片隅に記憶が残っていたようで、読み進むうちに、その事件のことを思い出しました。

それは、普通の高校生が、見ず知らずの家に入り込み、そこの住人を殺害してしまった事件です。
さしたる計画性もなく、そして、事件後も、必死に逃げるわけでもない彼は、警察に出頭した後、その動機を聞かれると、「退屈だったから」と証言するのでした。

彼を知る人は、彼のことを、優秀な普通の高校生と認知していて、一様に、この事件を知り、そして、その動機を聞いて、驚いたようです。
彼の頭の中には、彼なりの論理があり、それは、彼の中では破綻していないのです。ただ、それを聞いた他の人間には、その感性は、とうてい理解できないものでした。。
普通とは違う彼の感性。ならば、普通の感性とはなんなのか。元々、他人を理解し、その心の中を解明することは、可能なのか。

彼には、2回の精神鑑定が行われました。
1回目は、責任能力ありという鑑定結果。
しかし、弁護団から再鑑定請求が出され、再度の鑑定の結果、彼は、アスペルガー症候群と、診断されて、刑事処分を免れるという、大逆転となったのです。
普通にどこにでもいるような、優秀な高校生。
彼が、突然殺人を起こし、そして、発達障害と診断され、5年の医療少年院送致となったのでした。

5年という短い期間で、彼は、どう変わるのでしょうか。彼のあの特異な感性は、変わることがあるのでしょうか・・・。(2006.02.17)