シネマチェックトップページbook作家別index題名別index     




「贖いの地」
カブリエル・コーエン (訳=北沢 和彦 )  














マンハッタン対岸の波止場地区レッド・フック。この土地に生まれ育った殺人課刑事ジャックは、あるドミニカ人刺殺事件を担当することになった。ところが、現場を目にしたとたんに、なぜか嘔吐してしまう。百戦錬磨の刑事を動揺させたのは、いったい何だったのか?封印された記憶に秘められた悲劇とは?さびれゆく町を舞台に、一人の刑事の再生の物語を抑制のきいた筆致で綴る。 (裏表紙より)


この前に読んだ「あなたに不利な証拠として」に引き続き、アメリカの警察の話です。今度の主人公は、殺人課刑事ジャック。
ですが、普通の刑事物の推理小説と思って読み始めると、ちょっとはぐらかされた印象です。これは、推理小説ではなく、刑事という職業を持つ、一人の男の人間ドラマなのでした。
確かに、殺人課の刑事なので、殺人事件はしょっちゅう起きて、その都度、事件現場に向かうのですが、彼は、ある事件に、心が震わせられます。
それは、彼の遠い過去のある事件に、彼の心を運んでしまうのでした。
彼の過去に、いったい何があったのか・・・?
この答えが、なかなかはっきりしないので、私はちょっとイライラさせられましたーーー(^^;。答えがはっきりと出るのは、ラストですので、そこまで、しばしの辛抱です。

ただ、この本は、それだけの本ではありません。
15年前に、妻と別れたジャックには、23歳になる息子がいますが、彼とは、ほとんど会うこともなく、会っても気まずい沈黙があるだけ・・・。
ある事件で、パートナーとなった刑事の知り合いの女性とデートしても、なかなか次の一歩が踏み出せない彼。
女性との関係などは、やもめ暮らしが続いた中年男性には、もしかすると、共感出来ることなのかもしれませんね〜。
その他にも、彼の周囲には、色々な出来事が起こり、過去から甦った記憶と共に彼を苦しめるのでした。

この本は、ブルックリンのレッド・フックという土地柄が大きな比重を占めています。かつては重工業地帯で、繁栄していた街。しかし、高速道路が出来たとたんに、街は寂れ、また、更に次の試練が待ち受けているという地域です。原題も「RED HOOK」ですから、著者は、この地域に並々ならぬ思いがあるのかもしれませんね〜。
著者のガブリエル・コーエンは、この本がデビュー作で、2002年度アメリカ探偵作家クラブ賞(MWA)最優秀処女長編賞にノミネートされました。 (2006.05.24)