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「べっぴんぢごく」
  岩井志麻子



母を惨殺されて天涯孤独になった乞食のシヲは、村一番の分限者の養女となった。「ぼっけえべっぴん」と賞されたシヲだが、シヲの娘・ふみ枝は似ても似つかぬ醜女で、さらにその娘・小夜子は男を狂わす妖艶な美少女、そして初潮をむかえたばかりの小夜子が産んだのは、もはや“人とは呼べぬ”ものだった―。「書いてはいけないものを、書いてしまった」作家・岩井志麻子にそう言わしめた、女という生き物の哀しみに臨界点まで迫る暗黒大河小説、ついに登場。 (「BOOK」データベースより)


明治時代、岡山に流れ着いた乞食の母子から始まる物語です。

もう2度と読むまいと、何度も思いつつ、それでもまた読んでしまう岩井さんの作品ですが、ネットのお友達のKさんにお薦められて、またまた読んでしまいました(^^;。

岡山の農村にあった、乞食隠れ(ほいとがくれ)と呼ばれる板を象徴的に描いた暗黒大河小説です。

乞食隠れとは、玄関の脇に張った板のことで、乞食は、この板より中には入れず、ここにもたれて物乞いをする習わしになっていたらしいです。そうすると、家の中からは、乞食が、あまり見えないわけで、家の中の人と、乞食との、厳然とした境界線となっているわけです。

その乞食隠れにまつわった、シヲから始まる六代に及ぶ女系一族の物語です。
なんと言っても、初代のシヲの話がドラマティックで、面白かったです。その絶世の美女であったシヲの七歳から一〇四歳までの波乱の一生をメインに据えて、シヲの子孫は、脈々と、その因果な生を続けます。
よくもまあ、ここまでと思いつつ読んでゆくと、新しい世代が出てくるにつれて、どんどんその個性が薄れてゆき、途中からは、誰が誰の子供だったのか、訳が分からなくなりそうでした(^^;。

この一族の女達は、自分たちの運命に弄ばれて、流され、堕ちていったのでしょうか。
シヲは、悲惨な時期もあったにせよ、村の分限者という恵まれた立場にあって、長生きもし、何世代もの子孫たちを見届けてきたわけで、幸せな人生だったように思えます。

また、ぼっけえべっぴんと醜女とが交互に生まれたこの一族ですが、それぞれそれなりに、生き抜く知恵を持ち合わせ、結局、美醜に関係なく、しっかり生きたのではと思います。
あえて世代による美醜を出したために、題名の「べっぴんぢごく」が曖昧になったような気がしますが、どうなんでしょうか・・・? (2006.09.19)