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「空白の叫び」上・下
  貫井 徳郎



ふつうの少年が なぜ人を殺すのか
世の中への違和感を抱え、彼らは何を思い、どんな行動に出るのかーー
やがて殺人者になる三人の心の奇跡をたどった戦慄のクライム・ノベル (帯より)


14歳、中学三年生。
3人の少年が、ある日、激情に駆られる。
そしてその結果は・・・。

全く関連のない、そして、性格も全く違う、3人の少年の犯罪が描かれています。
問題児の久藤、家庭に問題を抱える神原、そして、全てにおいて恵まれている葛城。三者三様の動機で殺人を犯した彼らを待っていたのは、少年院での厳しい生活だった。

上巻では、彼らの犯行動機と、少年院での生活が、丁寧に描かれています。
少年である彼らが追いつめられてゆく姿は、痛々しくもあり、また、どうにかならなかったのかという焦燥感がありました。
この時点では、久藤に殺された柏木先生の気持ちの切り替え方に違和感を感じたものの、3人の少年たちの心の中も、苦しみも、その結果とは別にして、分かる気もしました。

そして、少年院での生活。想像は、していたけれど、それ以上に、大変そうでしたねぇ。
それでも、8ヶ月の少年院での生活を無難にこなせば、それで終わりというのは、いったい、彼らにとって、矯正になっているのかどうなのか、疑問が残ります。
その疑問は、下巻になって、やはり・・・ということになるのですが、こんなに年若くして、取り返しのつかないことをしてしまった彼らに対して、どういう手を差し伸べたらいいのかと、途方に暮れる思いで、この本を読み終わりました。

それぞれ違う立場の少年3人を描いているので、内容も、本の分量も、まさに重い本でした。しかし、3人の性格付けがはっきりとしているので、割とスラスラと読み進むことが出来ました。
特に印象的なのは、葛城。何不自由ない生活をしているようで、実は、非常に閉塞感を感じている彼の苦しみは、外からうかがい知れず、どんな人にも、他人を理解することなど、とても無理なのだと、改めて思えるのでした。

ラストが少々まとまり悪く感じてしまったのが残念ですが、少年犯罪と、彼らの更正とはを考えさせるには、十分の力強い作品でした。


なお、この小説は、2000年に少年法が改正される前の設定で書かれていて、今では、14歳以上の少年が、刑事処分の対象になっています。(2007.03.25)