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「僕たちは池を食べた」
  春日武彦





キッチュ、ステレオタイプ、コレクションなどの、ちょっと奇妙なこころの状態の研究で知られる気鋭の精神科医の初めての小説集。そういった著者の個性が全編に流れる、独特なひとびとのちょっと奇妙な世界を達意の文章で綴る。 (出版社 / 著者からの内容紹介より)



著者は、現役の精神科医。本の中に登場する先生も著者と同じくカスガ先生なので、実話の様な感覚で読みました。でも、実話にしては、あまりにもリアルで、問題が生じそう。やはり、小説なのでしょうねぇ。

本編は、8話から成り、それぞれに、日常生活に順応できずに、精神科にかかった人たちが登場します。
心因性失語症の女性。統合失調症の仏具師。鬱病の静物画家。灯台好きなてんかん患者。一筆書きに固執する強迫神経症患者などなど・・・。
それぞれに、お気の毒で、どうして、こういう病気になってしまうのかと思ったり、自分も少し、その症状に似ているのではないかと、心配になったりしながら、興味深く読みました。

それらの合間に、カスガ先生自身の話も、書かれています。
医師として、忙しく働く先生にも、人の好き嫌いや、うっかり言った一言での失敗があり、先生といえども、やはり普通の感情を持つ人間なんだと改めて思います。
また、患者によって診断や、治療法にも様々なバリエーションがある精神科医としての苦労話を読むと、外科のように派手な分野ではないですが、大変な職業だと思いました。
さらに、先生の蒐集癖を見ると、どっちが患者なんだか分からなかったり、試験のズルの仕方にそんなに苦労するなら、ちゃんと勉強した方がいいんじゃなかろうかと思ったりと、楽しく読むことが出来ました(^^)。

この本のちょっと変わった題名も、そんな先生の生活の一端から取られたものです。 (2007.06.19)