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「名もなき毒」
  宮部みゆき






どこにいたって、怖いものや汚いものには遭遇する。それが生きることだ。財閥企業で社内報を編集する杉村三郎は、トラブルを起こした女性アシスタントの身上調査のため、私立探偵・北見のもとを訪れる。そこで出会ったのは、連続無差別毒殺事件で祖父を亡くしたという女子高生だった。 (「BOOK」データベースより)



う〜〜む、深いですね〜〜。
久しぶりの宮部作品でしたが、さすがに読み応えがあって、しかも面白く、そして、一気に読めてしまいました。
読み始めるまで「誰か」のシリーズ物というか、登場人物が同じとは知りませんでした。シリーズ物は、人物の設定がうっとうしくて苦手なのですが、この本の場合、前の事件の余韻も感じつつも、あまり気にならず、ごく自然に読めたのもよかったです。

様々な事情を持った登場人物が現れて、彼らがお互いにどのような関わりを持つことになるのか、ワクワクしながら読み進みました。

人間の存在そのものが毒であるといいつつも、その毒の部分でさえも、温かい目で見据えようとする視線に救われます。
確かに、人間は、不公平で、一生を幸せに暮らすことが出来る人もいれば、不幸が不幸を呼び寄せているような人も、存在します。その人の怒りが頂点に達したときに、事件が起こり、また、不幸を呼び寄せるようなこともあるのかもしれません。そんな不幸の中で、もだえる人のことを思い、涙しました。何かのきっかけで、自分自身も、そんなエンドレスの不幸に落ち込むかもしれないのです。
ただ、人からうらやまれるような生活の中にも、小さな諍いや、思い違い、悪意、悲しみなども、潜んでいるわけで、いい生活をしているというだけで、完璧というわけではありません。
小さな毒を、少しでも減らしていこうとするのか、それとも、大きくして、周りにばらまこうとするのか、それは、一人一人の心の中の問題でもあるのでしょうねぇ。 (2007.07.13)