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「残響」
  柴田よしき


頭の中に反響する声・・・
それは、過去から運ばれてきた聞こえるはずのない「声」。
ドメスティック・バイオレンスから逃れ新しい人生を歩き出した杏子の抱える闇が残留思念と共鳴したとき、時間の底に眠っていた冷たい真実が浮かび上がる!
特殊な能力を持つが故の苦悩を静謐なタッチで描いた連作ミステリー。 (表紙折り返しより)



夫から受けたDVのために、過去の声が聞こえるようになったヒロイン杏子は、その能力を使って誰も知ることのない真実を明らかしてゆきます。
面白い設定です。その空間に込められた強い思いが、彼女の心に共鳴するのですから、とても不安定な能力ですが、魂とも違う、怨念とも違う何かがその場所に残ってしまうというのは、あってもおかしくないことかもと思いました。
そんな杏子の能力を生かして解決に導かれた、5つの事件が描かれています。

杏子の心の傷によって生まれた能力なだけあって、事件そのものも、切なさを感じるものが多かったです。
ただ、連作にすることによって、この能力を使うことをいやがる杏子が、その都度、引っ張り出されてしまうわけで、痛々しさを禁じ得ませんでした。
しかも、最後の方は、手近な事件で、手を打ちましたという気がしなくもなかったです。
まあ、この設定上、何らかの結末を必要としたのでしょうけれど。
発端が、暗いだけに、暗く、じめついた印象の連作集でした。 (2007.10.24)