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「ちびの聖者」
ジョルジュ・シムノン  長島良三・訳




パリ五区ムフタール通りの貧しい家に生まれたルイ・キュシャは、無口で夢見がちで身体も極端に小さかったため、虐められ蔑まれながらも、周囲の人々が<ちびの聖者>と呼ぶような、穏やかな微笑を常に浮かべて街の風景や人間たちを見つめている特異な少年だった。路上で行商する母と荒くれた異父兄弟たちの体臭で充満した家に育ち、中央市場で肉体労働をしながら、やがて独学で絵画をはじめ、一流の画家になって行く・・・・「ニューヨーク・タイムズ」がシムノンの最高傑作と折り紙を付けたバルザック流のなかば自伝的な小説。 (表紙折り返しより)



ジュルジュ・シムノンという作家をご存じですか?
私は、恥ずかしながらこの本で初めて知りました。
彼は、86歳で亡くなるまでに、小説を、本名で書いた物だけでも220本という多作家で、中でも有名なシリーズは、「メグレ警視」シリーズだそうです。そんな彼の作品の中でも、本書は、アメリカのニューヨーク・タイムズ紙に、最も優れた作品であると評されたものだそうです。

貧しく、複雑な家庭に育ったルイが、当時のことを思い出しながら綴っています。
だから、何年の何月頃にあった出来事だとか、当時、ルイは、何歳だったとか、そういうところが、曖昧で、最初は読みにくくて、困りました。
ただ、読みながら、徐々に、家族の状況や、街の様子などが鮮明になってゆきます。
この本は、ルイの視線のままに描かれた小説なので、素直に彼の視野で、物事を見て感じてゆけばいいのかもしれません。

男を次々と家に引っ張り込む母親、乱暴な兄たち、そんな中、女の子らしく成長してゆくアリス。
ルイは、彼らを見続け、観察します。そして、家の外にも彼の興味は惹き付けられます。
窓から見える指物師の仕事や、靴屋の店先をじっと飽きずに見続けます・・・。
<ちびの聖者>と言われるだけあって、ちょっと普通の子供とは、違う所も、多いように感じました。
そんな彼が、後半になって、大人になり、才能も、花開いてゆくのでした・・・。

この作品は、シムノンの自伝的小説とも言われるそうなので、シムノンの子供の頃は、こんな環境に住んでいたのかも知れません。それを懐かしんで、書かれた物なのでしょうか。そう思うと、本の表紙の市場にたたずむふとっちょおばさんが、なかなか味わいがあって、いいのです。
ちなみに、主人公ルイは、ピカソがモデルとも言われているそうです。 (2009,01,04)