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夏至祭の果て
皆川博子


長い間、図書館の閉架に押し込められていた恐るべき傑作が戻ってきた。
1976年第76回直木賞、栄光の落選作。
選考委員の器を完全に凌駕していた。
再読し、作品世界の大きさ深さにあらためて打ちのめされる。 (篠田節子推薦文より)



キリシタンの学校セミナリヨに進学した、尊敬する兄の狂気のような死を目撃してから、市之助は、キリシタンの教えに対する疑問を深めながらも、自らも、セミナリヨに入学して、神の教えを勉強する。

そこから始まる市之助の、波瀾万丈な半生が描かれています。
そして、マカオで育ち、司祭となったアンドレと共に行動するようになる・・・。

まだキリシタンが許されていた頃から、キリシタン弾圧が激しさを増してゆく時代を、その波をもろに受けながら生きた市之助。
国の考えの転換によって、多くの人が混乱したことは、大きな悲劇です。
でも、もし、あのまま、キリスト教が広まっていったとしたら、今の日本は、なかったかもしれない・・・。
国を治めていくとは、なんて大変なことなのでしょう。

それにしても、宗教が人々に与える力のすごさを、改めて感じます。
極限の状況を耐えに耐え、それでも、生きていけるのかと、驚くばかりです。

宗教を捨てた市之助と、あくまでも宗教の中に救いを求めるアンドレの生き方は、大きな隔たりがありますが、二人の人生は、その後どうなってゆくのでしょうか。

重い作品ですが、物語の中に引き込む力は、さすが皆川さんです。 (2014,10,30)