レンタルについて
(小学校が飼育動物をレンタルで賄っていることについて)

平成12年8月 中川 −私信 (関連記事が掲示板にあります)
 先日、児童向け新聞に大阪である動物(貸しだし)業者が学校や幼稚園に動物を貸しだし、評判を呼んでいるとの記事が載りました。この業者は見兼ねて始めたそうですが、1ヶ月えさ込みで、15000円(ヤギの場合、1匹で?)で、最初に飼育指導をしてから、貸し出すそうです。長期の休みには、里帰りさせるそうです。また、学校が困ったら引き取るそうです。病気の時など帰ってくるそうです。この業者は約50種類3000匹を常に飼育しているとのことです。 
 記者は、一つの選択肢と言います。が、どうでしょうか。

 大阪では600の施設(小学校、幼稚園など)が既に、利用しているようです。別の調査では、大阪市の小学校では、1校しか動物を飼っていないと、教育委員会が言っているそうです。
 新聞には、次の日に、東京の筑波大学付属小学校の教室内飼育と東大和市の小学校の教室内飼育などの試みが、紹介されていましたが、何しろ大阪の記事が詳しくとりあげられておりレンタル飼育の世論を造ろうとしているのか?と、心配になりました。

 この事について、記者とのやり取りを送ります。

<中川から記者へ>

 掲載紙をありがとうございました。 また、市民公開講座の案内をありがとうございました。記事の印象は、貸し出し動物を薦めているように思いました。実際そうなのでしょうか? 影響を考えて、世に紹介してくださればな、と思いました。
 この業者ですが、休みになって、600もの教育施設から動物がかえったきたとき に、充分な世話をしているのでしょうか? すこし、どこかに無理があるような気がします。しかし、この記事で、もっと貸し出しの動物が増えるような気がしてなりません。東大和の件は、教室でも飼っていると言う事を、書いて欲しかったです。
<記者から中川へ>
 貸し出し動物については、けして推奨するつもりで記事を書いたわけではありません。ただ、ひとつの選択としてこういう方法をとっている学校もある、ということが言いたかったのです。貸し出しを受ける学校が増えているということは、つまり、学校の力だけではうまく動物が飼えていないということの裏返しだからです。飼育動物の問題について、どこに相談していいのか、わからないというのが多くの学校(先生)の実状ではないかと思います。業者にたよるケースも、獣医さんに飼育を依頼するケースもまだ全体ではごくわずかなのではないでしょうか。

  教室飼育については、私が取材した学校の先生は、衛生面を心配されて否定的でした。リポーターのアンケートの中にも、教室がハムスターの飼育小屋状態 になっているという答えがありました。飼育小屋での飼育同様、教室飼育も、獣医さんなど専門家の方が学校へ入って指導して初めてうまく行くのではないでしょうか。そういうことも考えると、「教室飼育ですべてが解決する」という記事にはできませんでした。ただ、東大和の学校について教室飼育が入らなかったのは、単に紙面のスペースが足りなかったということだけだと思いますが。 

 それから、大阪でレンタル以外で動物を飼っている学校は1校しかないということはないと思います。きちっとした調査がないので、はっきりはわかりませんが。何も飼っていない学校が多いとは聞きました。 レンタルが600校に普及しているといっても、保育園や幼稚園も含んだ数ですし、しかも、その中には、一日だけというのも含まれています。  教育委員会が率先して薦めているということもなく、学校の先生の口コミで徐々に広がっているようです。しかし、学校には予算がないため、動物業者から借りていることをあまり公にしたくないようで、取材はずいぶん断られまし た。

 先のメールにも書きましたが、こちらでは、獣医師会と学校との関係ができていません。きちっと予算がついて、獣医さんが学校に飼育指導に来られれば、先生方も業者を頼る必要もなかったのではないかと思います。どちらにしてもレンタルに頼っている学校は全体から見ればそんなに多いわけではありません。  個人的な意見としては、先生や子どもが動物に慣れる第一歩としてはレンタルも選択肢のひとつとして、良いのではないかと思います。

 600校から帰ってきた動物をどのように世話しているのか、というお話です が、業者としては同じ動物をまた次の学期に責任をもって学校に返さなければならないので、粗末に飼うということはないと思います。業者の立場からする と、夏休みなども学校で飼ってほしいというのが、本音です。

<中川から記者へ>
 動物を飼って、動物の幸せをみなで望んでいる事が、動物の飼育の意義になります。子どもに愛情や、責任感、張り合いのある仕事を教える学校の飼育動物は、家族とも いえるもので、期限つきのものではないでしょう。 また、動物にとって、飼い主が変わることは幸せでしょうか? 面倒な時期は、里帰りしてもらう言うのは飼育ではないと思います。昨日、幕張でのシンポジウムの会場でレンタルの件を紹介しましたら、会場からもパネリストからも、悲鳴が上がりました。 この記事の影響が広まる前に、なんとかしたいのですが、マスコミに対しては、無力です。動物と子どもの関係がどんなものかを理解しない先生方は、便利と飛びつくでしょう。ますます、子どもの心は、「効率」のみを覚えてしまうのではないかと心配です
<大阪の児童を知る獣医師の意見>
 大阪も東京とほぼ同じような感じです。文部省の教育なのですから、そんなに違うはずはありません。ただ、獣医師との連携はほとんどないようです。学校の先生や、PTAの骨折りで、学校飼育動物を治療しているようです
<記者から、理解を求めるメールがあり・後日、記事の東大和市の小学校の校長先生と話し合って、また記者にメールをしました。
 この校長先生も、新聞社から送られた記事を見て、「まずいな」と思ったそうです。先生方が愛情抜きにして、簡単な形だけの帳尻を合わせようとする危険を感じるのです。
 なお、筑波大学付属小学校の先生は、やはり記事に取り上げられた方で、教室内にモルモットを4匹(子ども10人に1匹の割合)で、この1年間飼育しています。
この先生方は、子どもの教育の根本は「愛情」を教える事と思っています。>

(後日、記者へ送信)

 あれから色々考えています。大阪の獣医師会にも、知らせ、早く対応するようにはっぱを掛けています。あなたの報告として頂いたメールの中で・・

ただ、ひとつの選択としてこういう方法をとっている学校もある、ということが言いたかったのです。貸し出しを受ける学校が増えているということは、つまり、学校の力だけではうまく動物が飼えていないということの裏返しだからです。飼育動物の問題について、どこに相談していいのか、わからないというのが、多くの学校(先生)の実状ではないかと思います。業者にたよるケースも、獣医さんに飼育を依頼するケースも、まだ全体ではごくわずかなのではないでしょうか。

 この部分は尤もな事だと思います。だからこそ、獣医師が手伝おうと、獣医師向けに、教師に対して、役所にも、世論にも、私達は訴えているのです。文部省もこの活動を、「社会に必要なこと」と受けとめ、新学習指導要領の解説書に獣医師との連携を明記しました。

 私達は、それこそ懸命に児童と動物との健全なふれあいを広めたいと、文部省の方などの一緒に各地で講演会を開き、HPで呼びかけています。文部省の嶋野さんたちも何時も快く協力してくださいます。(私達がファームプレスから、「学校飼育動物のすべてーこどもとゆとり有る飼育を楽しむためにー」と言う本をだしますが、嶋野さんはそれにも原稿を書いてくださっています。)

 獣医師会サイドへの働きかけも猛烈に行い、幕張のシンポジウムには県獣医師会や政令都市の獣医師会長が15人も参加しました。
 徳島からみえた保育所の先生も、この話を広めたいと、講演会を現地で準備してくれてます。

 本当に平成10年から、毎月1回の割合で全国を歩いています。これは、本当の動物の可愛さ、子どもの心に与える癒し、教育的効果をどこの子たちにも、味合わせたいからです。今の状態の学校での飼育は、弊害になる心配もあります。

 今の飼育の1番困難な点は、先生が動物の意義を良く知らない事に有ります。また、動物の感情を考えたことも無く、子どもに知らせようもないのです。これらは獣医師が良く知っている事なのです。
 だから、私達は「動物の意義」を分ってもらうように、働きかけをします。そして、ゆとりを持って飼える方法をお知らせしています。

 あなたの言われる事に対する記事は、別の方法があったろうと思います。もう、獣医師会の学校への関与の契約数は、全国で50自治体を超えています。この中には6都県道と5政令都市があり、これらの県の市町村を計算に入れれば、獣医師が関わり、子どもたちに動物の良さを教えている市町村は、とっくに3桁を超えているのです。それらの動きを新聞に載せる事は、対応の分らない学校の先生に、解決方法を教えることではありませんか?

 契約の内容を見れば、獣医師が多くの負担をして頑張っているのです。子ども達を思えばこそです。

教室飼育については、私が取材した学校の先生は、衛生面を心配されて否定的でした。リポーターのアンケートの中にも、教室がハムスターの飼育小屋状態になっているという答えがありました。飼育小屋での飼育同様、教室飼育も、獣医さんなど専門家の方が学校へ入って指導して初めてうまく行くのではないでしょうか。そういうことも考えると、「教室飼育ですべてが解決する」という記事にはできませんでした。と、お書きですが、

 やリ方ではありませんか?おっしゃる通り、獣医師の指導が有れば良いと思います。衛生的に飼うように助言できます。

 先生方が衛生的に問題だと言うのは、実は面倒だという意味もあるのです。「児童のために良い」という確信があれば、その為に努力するのは、教師の役目だと思いませんか?(もっとも、子供に良いと思えば、親が子供に与えるのも、親の役目です。しかし、親を変えるのは直ぐには出来ません。)

 だから、筑波大学付属の森田先生はクラスでモルモットを飼育して頑張っているのです。教師として教育のためにやっているので、趣味でやっているのではありません。

 私の作ったビデオ「学校飼育動物と児童」の中で、森田先生は動物を飼うきっかけとして「文部省のマニュアル作成研究会のときに、一年間獣医師と付き合って、自分たちの動物に対する知識がいかに薄っぺらであったか。また、誤解もいっぱいあった。」

「獣医師から、飼育の意義を学び、やはり教室で飼う事を、必要と認めたから飼う事を決めた」と言ってくださっています。

 学校の先生は、子どもの勉強の専門家では有りますが、動物と人に関する事の専門家ではありません。獣医師に助けを求めることは、必要なことで、それにより、一層子どものたちの心を豊かに、情愛ふかく育てる事ができます。

 新聞は、世論を作れる立場です。世間に良い方法を伝える事が出来ます。記者さんたちは皆さんに情報を伝えてくれるのですから、よりしっかりした将来を
見据えて下さって、記事を用意してくださるよう、くれぐれもお願い致します。

<再度、記者から謝罪と理解を求めるメールがあり、私も理解をもとめて謝って終り>

  関連記事が掲示板に入っています.是非ご覧下さい。

なお、後日、文部科学省視学官が、「レンタル飼育を自治体がみとめるとしたら、日本の教育の基本も変わる危険がある」と述べています。