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獣医師広報板のキャラクター:ココロちゃん犬の発情、不妊手術(避妊・去勢)について
文章:パールちゃん・りんママ
初出:2004/03/10
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【発情のサイクル】
発情は、子孫を残そうとする心身の作用です。
メス犬はだいたい生後6〜8ヶ月くらいのときに初めての発情があります。
大型犬だとそれよりちょっと遅いことがあります。
最初の発情は個体や犬種にもよりますが、早い場合(小型犬に多い)の生後4ヶ月、遅い場合(大型犬に多い)の生後14ヶ月くらいと幅があります。
以降、約半年毎(実際は7〜9ヶ月毎くらいが多い)に発情を繰り返します。
小型犬は発情サイクルが短く5〜7ヶ月周期の年2回、大型犬はサイクルが長く8〜12ヶ月周期の年1回になることもあります。

[メス犬の性周期]発情前期→発情期→発情後期→非発情期→発情前期を繰り返す。

・発情前期 5〜20日間で平均10日間。
オス犬を許容しないが、この頃からメスの出すフェロモンでオス犬が悩ましくなる。
・発情期 7〜15日間の平均8日間。
オス犬を許容する。
・発情後期 60〜105日間。
オス犬を受け入れたがらなくなる。
妊娠・分娩・授乳がこの期間にあたる。
妊娠していない場合、多くのメス犬が偽妊娠期間となる。
・非発情期 平均30日間。
心身共に落ち着いている状態。

最初の発情では精神的にも身体的にもまだ完全に成熟していないため、繁殖は見送ったほうがよいとされています。
10歳を過ぎて生殖能力が落ちると発情間隔が乱れ、人間でいう閉経になります。

【発情期の様子】
発情期の始まりころは、なんとなく落ち着きがなくそわそわしたり、神経質になったり、食欲が落ちたり、おしっこを少量ずつあちこちにしたり、毛づやもよくなります。
いつも以上に飼い主に甘えたり、逆にそっけなくなったりもします。

発情のとき、生理のような出血が必ずあるわけではありません。
まったく出血がない場合もありますし、あってもごく少量の出血とか、すぐに自分で舐めてしまって飼い主が出血に気づかないこともよくあります。

透明なおりものが出る→
少し血が混じってピンク色のおりものになる→
赤黒い血が混ざったおりものになる→
真っ赤な血の色になる→
陰部が柔らかく大きくなりながら出血が続く→
陰部は腫れたまま血が減ってピンク色のおりものになる→
何も出ないがまだ陰部は腫れている→
陰部の腫れがなくなって元に戻る、
こういう一連の経過が一般的な発情≠ナす。

発情期間は短い子で約1週間、長い子で約1ヶ月、平均すると2〜3週間です。
個体によってばらつきがあります。
この期間中、最も受胎しやすいのは後半の約4日間ほどで、陰部は柔らかく腫れたまま、血が減ってピンク色のおりものになるころです。
この時期にメス犬の陰部にふれると、しっぽを左右どちらかに傾けます。
これはオス犬を受け入れる仕草で、交配適期の目安になります。
発情期には膣や子宮内の自浄作用が落ちますので感染症などに気をつけてください。

【発情の影響】
犬の発情を人間の女性の生理と同じ感覚でとらえてしまうのは少し間違っています。
人間の女性も生理中はふだんとは違う体調や精神状態になりがちですが、犬はそれ以上に心身に変調を起こします。
犬は子孫を残そうとする動物的本能をストレートに発揮しますから、ふだんはよく飼い主の言葉を聞き分ける犬が飼い主を無視したり、制止を振り切ってオス犬のところに行ったり、家から脱走したりということがあります。
年2回という発情周期は子孫を残すためのごく限られたチャンスです。
発情しているのに交尾・妊娠に至らないと、性ホルモンはもっとがんばらなきゃと過剰に分泌され、その結果として子宮や卵巣、乳腺などが病気になる原因になることがあります。
メス犬が正常な妊娠・出産ができるのは約10年間足らずの短い期間です。
その間、子孫を残そうとメス犬は発情を繰り返します。
メス犬にとって発情は必死なことなのです。
この点、心身に多少の影響はあるけれどなにげなく生理期間を過ごす人間と違い、犬の場合は生理≠ナはなく発情≠ニ認識してあげる必要があります。

【不妊手術(避妊・去勢)のこと】
メス犬に交配・出産を予定しないのなら避妊手術を考えてみてください。
避妊手術をすれば発情のたびの心身の大きなストレスを回避できますし、将来病気になるかもしれない部分(子宮・卵巣)を取ってしまえば病気予防になります。

避妊手術は全身麻酔をかけて開腹し、主に以下3方法のうちどれかで行われます。
1.卵巣摘出手術→基本的に手術後は発情はありません。
2.子宮摘出手術→卵巣が残っていますので発情はあります。
3.子宮卵巣摘出手術→基本的に手術後は発情はありません。
※1と3の手術で卵巣組織全体が取り切れずごく一部が残ったり、片側の卵巣が見つけられなかった場合は手術後も発情の兆候が見られます。

日帰りでいいとする場合や念のため数日間入院する場合など、病院によって対応はさまざまです。
初回発情を迎える前の仔犬にも避妊手術は実施できます。
若くて体力があれば術後の回復も早く、心配は少ない手術です。

手術をする以外に、インプラントという避妊(発情抑制)方法があります。
これは、ペン先くらいのものをメス犬の背中に埋め込み、そこから放出されるホルモン効果によって妊娠しているのと同じ状態にするものです。
偽妊娠の状態を作り出すことでメス犬は発情しなくなります。
インプラントは動物の個体によって有効期間が異なります。
うっかりしていると効果がなくなっていて妊娠が成立してしまう可能性があるため、発情抑制を継続したい場合は埋め替えが必要になります。
また、子宮蓄膿症を誘発したり、動物種によっては強い副作用の報告例があるので、使用の際は慎重さが求められます。

【オス犬のこと】
オス犬には発情期はなく、オス犬自身から発情することはありません。
発情中のメス犬の匂いで誘われ、メス犬がOKならばオスはいつでも交尾可能です。
つまり、犬の性行動はメス犬主導で、オス犬は常に受け身なのです。

発情したメス犬の匂いは2キロ四方に届くといわれています。
オス犬が生殖能力が完成するのは生後1年くらいです。
メス犬の匂いをキャッチしたオスは悩ましく遠吠えを繰り返したり、脱走してメス犬に近づこうとしたり、近所のオスと喧嘩をしたりすることがあります。
メス犬が必死で子孫を残そうとするのと同じように、オス犬も必死になって自分の子孫を残そうとします。
これも性ホルモン分泌に影響を及ぼし、精巣や前立腺の病気の一因になります。
交配させる予定がない、将来の病気を防ぎたい、おだやかに過ごさせたい、そう思うなら去勢手術を考えてみてください。

去勢手術は、全身麻酔をかけて陰嚢(タマタマの袋)の近くを少し切開し、精巣(タマタマ)を取るのが一般的です。
日帰りまたは1泊入院で済むのが大半です。

しかし、停留精巣(停留睾丸・陰睾丸)のように、精巣の片方あるいは両方が陰嚢内に判別できないときは開腹手術になります。
睾丸が腹腔内や鼠径部にある場合など、見つけられないこともあります。
停留睾丸は正常な場合に比べて腫瘍発生率が高くなるといます。
また、停留睾丸は遺伝性疾患と考えられますので、繁殖には用いないとされています。

【不妊手術をするかしないか】
性ホルモンの関係で、メスもオスも避妊・去勢手術後は太りやすい体質になりますが、個体差があり、まったく太らない子もダイエットしているのに太ってしまう子もいます。
不妊手術をしたことをかわいそうだと飼い主が思い、甘やかしておやつやゴハンをたくさんあげてしまうことが実際に多く、それも犬を太らせてしまう原因になります。
食べ物で甘やかさず、適切な運動を保てば、太りすぎによる病気は予防できます。
性の悩みなく、おだやかに暮らす時間を得た犬は、それまで以上に人間のよきパートナーになり、それは犬自身の幸せになります。

不妊手術をすることをかわいそうだと思う人は多いですが、不妊手術をしないこともまたかわいそうなことなのです。
手術をしないことによる心身の負担についてよく考え、手術のメリットとデメリットをかかりつけの獣医さんに相談してみてください。
するかしないか、決めるのは飼い主さん自身です。

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