獣医学科の開設されている大学で所定の単位を履修後、国家試験を受験する。
国家試験の合格者にのみ、免許が交付され、農林水産省の獣医師名簿に登載された者が、はじめて獣医師を名乗る事ができます。
獣医学科が開設されている大学は、国公立、私立を含めて、16大学にすぎないので、大学入試への競争率は、かなり高い。
大学卒業後は、診療獣医師と非診療獣医師とに進路が別れるが、ほとんどの獣医師は、非診療獣医師としての仕事に就くことになり、畜産生産物としての食料生産や公衆衛生分野において、人々の衛生面を陰から支える業務が主体となる。
このため、大学における教育内容も、これらを目的とした授業カリキュラムが主体となっているのが普通である。
(近年は、小動物診療の道に進む者が著しい増加傾向にある。)
1.非診療獣医師
国家公務員:家畜衛生または、公衆衛生行政担当、研究職、動物の輸出入検疫、畜産試験場、種畜場等
地方公務員:畜産課または、公衆衛生担当、試験場、保健所、家畜保健衛生所等
企業・団体:製薬会社、乳業メーカー、行政外郭団体(畜産会、獣医師会等)
2.診療獣医師
団体職員:経済連や酪農組合及び家畜共済組合い職員として、牛・豚・鶏等の家畜の診療。
特殊な分野として、競走馬の診療。
大動物及び中小家畜の診療医
上記の獣医師が退職後に専門分野を活かして、そのまま個人開業医として診療を継続。
また、農業法人や企業における家畜の管理獣医師も存在する。
小動物診療医:
犬や猫等の小動物の診療を目的として、動物病院を個人で開設して行う。
既存の動物病院において、研修を受け、その後に独立するのが一般的といえる。
近年は病院開設が容易ではなく、既存病院の勤務医のままという形態も増えている。
また、診療対象も小鳥、ウサギ、ハムスター、爬虫類等多岐に亘る傾向も見られるようになってきている。
3.仕事の内容の変遷
歴史的には、「伯楽(はくらく)」の名称で農耕馬の世話や繁殖の傍らに、外傷の治療や寄生虫の駆除が主体であった。
(戦前・戦中)
農耕馬から、軍馬に馬の使用目的が変化してきており、軍用場として騎馬および武器の輸送用の引き馬の生産が主たる仕事内容となる。
(戦後)
戦争によって荒廃した土地で蛋白質の供給を目的として、酪農が奨励され、乳牛の診療が増えてきた。
また、当時は肉畜として豚や鶏の生産も増え卵も貴重品であった。
その後、食料事情の変化により、豚や鶏よりも肉牛の生産にシフトされてきている。
これらの家畜については、乳牛であれば、1頭の乳牛がいる1頭分のスペースの牛床が1年にどれくらいの乳量を生産してくれるかの判断が非常に重要であって、生命に危険はなくても、治療に時間がかかる疾病であれば、牛の入れ替えを客観的に判断して飼い主に伝えるのも、極めて大切な仕事である。
また、豚や鶏のように1棟に多数の家畜を飼育している場合は、疾病(とくに伝染病)侵入させないことが、最大の仕事であり、予防医学こそが主たる業務である。
1頭について、1000円以上の治療費がかかるのであれば、治療よりも淘汰が優先され、全体に疾病が拡がるのを防ぐこととなる。
伝染性の疾病であれば、まず「検査と淘汰」こそが最優先される。
獣医師であっても、治療に携わるということはない。
家畜にあっては、獣医師の仕事は、食用に供することができる畜産物を生産することに寄与することであり、生産者である畜産農家の経営を支えると同時に、よき相談相手であることにつきる。
ペット動物の診療
小動物診療医による犬や猫を中心とする診療は、戦後から始まっているが、動物病院が目につくようになったのは、約30年前くらいから。
犬や猫が子供をたくさん生んで増え、野良犬や野良猫の増加を防ぐために、避妊や去勢手術の導入が端緒となっているが、当時は、文化人と称する人々から、「犬や猫にも子供を生む権利はある」とか「自然の摂理に反する」とかいう理屈で、反対する意見が多かった。
今でも、この理屈で避妊や去勢手術に反対する人々は少なくない。
動物においては、人間において見受けられるような疾病は、やはり存在しており、眼科の範囲であれば、「白内障」も「緑内障」もある。
人間に「白血病」があれば、犬にも猫にもあるし、牛、豚、鶏にもある。
人間にエイズと呼ばれる「免疫不全症」があれば、猫にも「ネコエイズ」と呼ばれる「免疫不全症」が存在しており、人間の治療薬の開発にネコが実験動物として貢献している。
さらに、寿命が人間よりも短いので、各種の腫瘍の発生にも人間よりも頻繁に遭遇する機会が多い。
近年は、屋内で飼育されるペットが増えているために、アレルギーやアトピーに罹患している犬や猫も著しく増加していて、人間以上に重篤な症例も目にするようになってきている。
ペットの飼育管理から、繁殖相談、疾病の治療、ペットの痴呆症の管理相談やペットロス(ぺットが死亡した際の飼い主の精神的な落ち込み)の飼い主さんに対するケアー等、飼育されている動物の生涯を通して関わることになる。
飼い主さんからの要望は、多岐にわたり、難度の高いこともしばしばあり、広範囲かつ専門性が求められるが、検査機器や薬剤も多種多様にわたり、個人の臨床獣医師にあっては、かなりの負担となっており、ロスも多い。
#飼い主さんは、人間であれば大学病院でもないと実施しないような手術でも街医者である開業医に要求してくるし、抗癌剤においては、原価が元々高いので、各種揃えることは、ロスも負担も大きい。
また、開業にあたっての立地条件や金額的負担も増加の一途をたどり、研修医から開業医への独立は、年々困難の度を増して来ている。
このため、動物毎あるいは診療科目毎に細分化して専門性に特化して既存の動物病院と競合しないような独立への道を求める者や、個人の専門性を高めスペシャリストとして勤務医の道を極めようとする志向も出て来ている。
「猫は小さな犬ではない」という格言が獣医師の世界にはあり、動物をひとくくりに見る安易な見方を戒めているが、セキセイインコとフクロウであれば、同じ「鳥」と言っても、これはウサギとライオンくらい異なる生き物であり、食性が草食動物と肉食動物くらいに違う、診療を目的とする獣医師であれば、まず、飼い主にその飼育している動物の本来の姿を知ってもらうことから始まり、「飼い主が100%真実のことを話しているのではない」ことを、あらかじめ承知しておかなくてはなりません。
飼い主の意識が改善できなければ、その動物は獣医師の治療だけで回復に向かうとは限らないのです。
それだけに、動物のことだけでなく、人間にも目をむける必要が求められます。
言葉を話す事ができない動物から、話を聞く能力も必要ですが、その飼い主さんとも話しができなくてはなりません。
飼い主さんにこそ、積極的に話かけないとなりません。
診療獣医師であれば、家畜であれ、ペットであれ、その対象となる動物の「死」に立ち会わなくてはなりません。
どのようにお金をかけて最新の医療技術を注ぎ込んでも、生き物は最後には死にます。
これを逃れ得た動物も人間もいまだに存在しません。
「納得のできる死」を迎えることができるようにというのが、獣医師の存在している意義ではないでしょうか?
ペットの診療では、飼い主さんから治療を断られることが、しばしばあります。
それでも人間を嫌いにならずに 動物を見つめ続けることができますか?
獣医師になるのに、「動物が好き」は絶対的な条件ではありません。
むしろ、「嫌い」な方が都合がよいかもしれません。
つらい想いや悲しい想いをしなくて済むからです。
しかし、人間に関わらないと職業としては成り立ちません。
どのような職業であろうとも自分1人で成り立つ職業はないのです。
獣医師も例外ではありません。
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