獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200104-149

reブンチョウのヒナ
投稿日 2001年4月17日(火)02時05分 はたの

獣医師ではありませんがご参考まで。

 22時過ぎにハッチしたとのこと。そのときに親が次の繁殖に・・・というあたりが少しナゾではあります。
 まず最初に、「親鳥といえども、初回繁殖時に初めて同種のヒナを見る」ことを想起してください。抱卵から育雛へは生得的な反応の連鎖がありますが、最初っからスムーズに流れるものではありません。少し迷ったりする時間も必要です。迷った結果、ヒナが死ぬこともあります。しかしそれが、2回目以降の育雛の成功に繋がるのもまた、たしかなのです。最初からうまくいくように、抱卵に入ったら低蛋白食に切り替えて(アワ玉等中止して)、雛が孵ったらアワ玉再開・・・とするのですが、もしかして継続されませんでしたか?

 仮に継続なさっていたとしても「いまさら」仕方のないことですので、今後の対応。
 雛は自力で体温を維持できません。しかし、これは言い換えると、ホメオスタシスが未完成ということでもあり、低体温に陥っても、初回給餌前ならば、低体温になった成鳥ほどには簡単に死なない、リカバリーする能力がある、ということでもあります。触って冷たく感じる成鳥はもう処置なしですが、ヒナならそこから立ち直り得るのです。まずは巣に戻して(必要なら巣の下にペットヒーターをあてがうなどして最低温度は確保して)、親鳥の育雛衝動が、解発されるのを待ってはどうでしょうか。このとき、ヒトが無視して、ヒナを飢えさせ、そのせっぱ詰まった声に親鳥が反応するのを待つ必要があります。明るくなってから数時間は、できればカゴがあるのとは別室で待ちましょう。ブンチョウの雛のヨーク量については存じませんが、多くの鳥の雛の体内には卵黄分が残っていたり、あるいは残っていなくても、消化管が機能していなかったりで、親鳥からエサをもらって消化できるようになるまでは数時間から数十時間がかかります。その間の給餌は有害無益ですし、給餌を受け入れられるようになるタイミングと、給餌を必要とするタイミングも異なります。ブンチョウのヒナにしたって、夕方に孵化した場合、翌日までは無給餌で生存できるように設計されているはずです。野生状態で夕方孵化、翌朝荒天、ってことはあるわけで、荒天が何日も続くならその雛は死ぬわけですが、短時間なら持ちこたえるはずです。そうでなきゃブンチョウって種はとっくの昔に滅んでいますから。
 まずは焦らないで親鳥に任せましょう。

 翌日の午前10時とか昼になっても親鳥が面倒を見ないということであれば(巣から放り出す、また巣内に残っているとしても、そ嚢にエサが認められない)、決断しましょう。人工育雛か、なお任せ続けるか。
 人工育雛は相当に大変でしょう。アワ玉単用で行けるかな? 多分、アワ玉+緑餌+すり餌(ないしペレットフードの粉末)+消化酵素、というあたりがベターと思います。消化酵素はVITARK社のAVI PROをお勧めしておきます。大手のショップにはあると思いますが、とりあえず確実に扱っているのは http://www.owlroom.com/ です。なお、脱水は怖く、かといって水分過多な餌は下痢やらの原因となるので、部屋の湿度を上げることが大切です。保温すればなおさら湿度は下がりますので。巣材がじとじとしない程度の高めの湿度が適当でしょう。また、幼いヒナだからといって、前回給餌分がこなれる前に次を与えるのは消化不良のもとですので、控えられますように。
 しかしこの場合でも、親鳥に育雛に参加する機会を与え続けることをお勧めします。親鳥がいるケージの中の巣に雛を置いておき、給餌時だけヒトが関与する、親鳥が給餌を始めたらヒトは手を引く、という形で。そうでないと、そのペアは永遠に育雛をしなくなるかもしれません。すると、毎度ヒトがやらねばならず、となると生存率がずっと低いままかもしれません。
 そういう意味では、今回の雛の生死は無視して、親鳥に任せる、という決断も選択肢のひとつです。それによって親鳥が育雛を覚えれば、次回からはヒトが手を出すよりも高い育成率となり、そのペアから生まれる雛全体の死亡率は、今回のヒナを見殺しにすることで高められる可能性もあるからです。
 親鳥が抱卵・育雛放棄をする理由には、環境・餌の不適、親鳥の未熟の他に、卵や雛の虚弱を感じ取って、もあります。何が何でも生かすのが最善とは限りません。目の前にいるヒナをなんとか助けたい、というお気持ちはわかりますが、将来のことも考えて、冷静に判断されることをお勧めします。死すべき運命のヒナを無理に生かすのが良いこととは限りません。悪いと決め付けるつもりもありませんが。
 1ペアのブンチョウはうまく飼えば数十から百羽ほどの雛を生産します。それらを全体として見たときの死亡率を下げることが大切でしょう。

 端的に言えば、明日お仕事を休まれるのですから、徹夜などなさらず、ヒナの無事を祈りつつ、お酒なりお茶なり飲んで寝てしまいましょう。そして明日の朝そこそこ遅い時間に観察して、ヒナが死んでいたら諦めます。親鳥が面倒を見ていたら喜びます。親鳥が無視しているのにヒナが生きていたら、そこで人工育雛に踏み切る、というぐらいでいいのではないでしょうか。繁殖は産む側にも生まれる側にもリスクを伴なう営為ですので、死が付随するのが当たり前です。その覚悟のもとで、できることと、できることのうちのやるべきことを判断されてはいかがでしょうか。
 逆にいえば、卵を人工孵卵することに決められた時点で、初生ビナから人工育雛を行うための情報収集や資材の準備を始めておくことが必要でした。今回それが間に合わなかったわけですから、ヒナが育たずに死ぬのはある意味で当然、仕方のないことです。次回に生かすことを考えてはどうでしょう。準備不足のなかヒトがいじって死なせればそれだけに終わりますが、親鳥に任せれば次に繋がる、ということです。

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