獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200108-43

reズーノーシス
投稿日 2001年8月4日(土)00時22分 はたの

獣医師ではありませんがご参考まで。

拙宅でもいろいろな動物を飼っていますし、ズーノーシスで入院した知人もいます。が、免疫に問題がある者が家族にいないかぎり、気にしすぎることはない、と考えています。

ズーノーシスの怖さは、ヒトの体の免疫システムが対応していない病原体が悪さをするところにあります。が、他方、病原体にしてみれば、本来住むべきでない所(つまりヒト)に移住するのは大変なことです。国内で引っ越すのと、日本と環境が異なる外国へ引っ越すのとが異なるように。
この双方を総合してリスクを考えた時、他のいろいろなリスク要因としてズーノーシスが飛び抜けて大きいわけではありません。ズーノーシスで死亡するヒトもおられるでしょうが、その割合は大きくありません。幼いお子さんでしたら、家庭内での事故死のほうがよほど怖いわけです。
リスク管理は、まずリスクの評価があり、これは上のように、さほど大きくはない、ということになります。ついで、あるリスクをある程度減少させるためのコストを考えることになります。リスクの量とその減少にかかるコストは直線的に比例しませんので。

手洗いの励行などは大したコストがかからず、その割にリスク減少に効果的ですから、ズーノーシスの対策として有意義です。が、ネコを特定の病原体について無菌化しようとするのは、その効果の割にコストが大きく、有意義とは思えません。同じコストを家庭内事故防止に使うほうが良いわけです(蓋の有無に関わらず、風呂桶には水を張りっぱなしにしない、など)。
また、より長期的にみた時、特定の怖いものを除いて、病原体を排除しようとばかりすることは、得策とはいえません。免疫系は病原体との接触によっていわば鍛えられるのです。さらにお子さまの精神的な成長を考えればなおさら、周囲を無菌化しようとしすぎるのには問題があります。世界じゅうを消毒して歩くわけにはいかず、いずれお子様もそうした「汚い」世界と接します。大切のはその「汚い」世界に対処できることでありましょう。「直接体験不足症候群」なんて言葉、最近では聞かれなくなりましたが、解決されたからではなく、それが普通になってしまったから故でありましょう。

0歳児にハチミツは与えない、というように、特にハイリスクな事柄に配慮するのは当然です。が、ズーノーシスに過度に神経質になる必要はない、と思います。専門家は悲惨な例を知っているだけに真摯な心情として、また意識的かどうかはともかく注目を集めたいが為に、自身の専門分野のリスクを強調する(マスコミもそれを奨励する)傾向にあります。ネコを無菌化する、のと同じレベルの対策を全方位に向けたら何もできなくなります。
免疫に特別の問題がないのであれば、実施しておられる対策でも充分すぎるほどではないでしょうか。お他所さまに勧めはしませんが、個人的には、カメいじったら手を洗う、が、イヌネコとはキスする、ぐらいが健全と感じます。
より大切なのは家族がズーノーシスに感染する可能性があることを忘れないこと、と考えます。大半のズーノーシスでは、医師が悩んだ時にその可能性を指摘できれば、大事にいたる前に対処できるでしょうから。

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