獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200206-176

Q熱について、追加
投稿日 2002年6月22日(土)10時44分 プロキオン

先日、Q熱について御質問がありましたが、どうも公的な統計がなされてい
ないようなので、私の分かる範囲でレスします。


この疾病は、リケッチアの一種であるCoxiella burnetii
に起因する人畜共通感染症で、1935年に発見され、その後我が国におい
ても人間や家畜においても抗体陽性例が確認され、病原体の侵入はあるもの
の、疾病そのものは存在しないと理解されていました。
(人間や家畜における発病報告がなく、病原体の確認ができなかったため)

しかしながら、世界的に見てみると、この疾病を継続的監視を必要とする疾
病であると考える意見も少なからずあります。
それは、この病原体であるリケッチアが、ひじょうに広い宿主域をもち、人
間だけでなく、家畜・家禽、犬や猫等のペット、野生の鳥獣等極めて広範囲
であり、感染経路も分娩や流産時の排泄物、ダニ、飛沫や粉塵等を介して、
自然環境をも含めた複雑な状況にあるうえに、乳製品や食肉製品まで感染経
路となりえるからです。
また、人間における急性期の症状は、発熱、悪寒、嘔吐、を初めとし頭痛、
筋肉痛、関節痛等体の節々の痛みであったり、咳きや気管支炎・肺炎であっ
たりします。いわゆる非特異的な症状であって、これらの症状から直ちにQ
熱と結び付けて考えるのも困難なところがあります。
動物においては、さらにむずかしく、発熱や時として流産くらいの症状であ
り、これらの症状から常にQ熱を疑ってかかるのはむずかしい状況なのです。
また、それ故に患畜の摘発が困難であり、食肉や乳製品を介しての集団感染
や犬や猫、小鳥を介しての家庭内の感染が静かに広がっていく可能性もある
ということになります。
診断には、やはり家庭内に動物を飼育しているかが凛告として得られている
かが重要であり、病原検索の材料が採取されているか、あるいは血清による
抗体検査の結果を待たなくてはなりません。
ひじょうに広範囲で複雑な感染経路が考えられ、臨床の場における確定診断
が容易でないというのが継続監視が必要とされる所以です。

我が国おいては「家畜伝染病予防法」がありますが、この法律では疾病とそ
の対象動物を併せて指定しているため、両者が一致していないと患者である
動物の法令殺は実施されません。法律によって行政から殺処分を命令されな
いですみますが、法令によらない「自衛殺」は要請されるのではないかと考
えられます。こちらですと、補償金は出ません。
もとより、この疾病自身が家畜伝染病予防法の想定外の疾病ですので、無理
もないところと言えます。
人間の患者の場合は、「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関す
る法律」が適用されますが、Q熱であると診断した医者は、7日以内最寄り
の保健所に届け出なくてはなりません。
疾病自体は、「4類感染症」に分類されていますので、入院勧告も患者の就
業制限もなく、診療も一般病院でかまわないことになっています。単に発生
動向のみについて調査対象とするという扱いです。
こちらにおける問題点は、公的機関がこの疾病の発生状況を把握しえる体制
になっていないという点と、検査機関が限られてしまっているところにあり
ます。

ある大学の検査による抗体陽性率は、
 一般健康者     60名中  3、3% であるのに対して、
  獣医師      275名中 22、5%
  食鳥処理場従業員 107名中 11、2%
  呼吸器疾患患者  184名中 15、2%
という結果が報告されています。
さらに、93年に静岡県で、インフルエンザ様症状を示した7つの集団の学
童55名のペア血清において、18例の抗体上昇を認め、13例から病原体
を分離したそうです。同じグループの引き続きの調査では、犬や猫からも病
原体の分離が報告されているそうです。これらなどは、すでにりっぱな発生
報告と解しても良さそうに思います。
また、病原体の分離というのではないのですが、この調査報告をされている
先生の報告の中には、某医科大学付属病院の来院者3000名の抗体調査報
告に触れている箇所もあり、その中に抗体陽性患者の82、4%そして抗体
陰性患者の11%からも、Q熱病原体の遺伝子を検出したとしています。

昨今は、遺伝子の検出という手法が広がっていますが、抗体陰性者の11%
からも、遺伝子が検出されているというのは、驚きです。まさにこの検査方
法であるからこその知見といえます。

これらの数字は明確な発生報告がないまま、すでに我が国に相当な浸潤が進
んでいることを物語っていると言えそうです。

牛における感染症状は、発熱、食欲不振、沈うつ、子宮炎、流産等であり、
乳汁や糞便中にリケッチアを排泄します。
緬山羊も 牛に類似するとのことであり、豚は抗体は検出されるが多くは不
顕性に終わる。馬では、カタル性の腸炎や鼻炎、結膜炎や呼吸器症状を呈し
、犬や猫は不顕性もしくは軽い発熱程度であるが、妊娠猫には流産がみられ、
その後長く病原体を排泄するとなっています。
鶏やアヒル等の家禽を含めて鳥類は、不顕性感染ということになるそうです。

これらの動物の症状を見ると、上記の調査で、動物と接触する職業に抗体保
有している者が何故多いのか理由が分かるように思います。

なお、今回の執筆にあたっては、「日本小動物獣医師会会誌」の38号及び
41号を参考としています。

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