獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200410-53

クマ:マクロの視点「も」必要かと
投稿日 2004年10月5日(火)23時54分 投稿者 はたの

まず、個体の「愛護」か個体群の「保護」かという枠組み問題があります。oliveさんは「絶滅危惧IA種にあって」と書かれていますから後者と解釈します。
 この場合、一頭一頭の生死はとりあえずどうでもよい、ということになります。生産力以下の捕殺であれば問題ありません。殺せば、その分空き地が出来て、お代わりが生きられることになります。むしろプロキオンさんが書かれたような、広域の遺伝的交流の確保がより大切になります。

 捕殺の判断について、部外者が欠点を見つけるのは簡単ですが、以下のようなことを踏まえていないと説得力を欠くでしょう。
・日本は、近年の自然破壊とは無関係に、歴史的に、クマとヒトの生息域が隣接している。
・日本は、クロクマの管理については、世界的にみても先進国である。ヒグマを含めたクマ全般としても、それなりに最新技術の導入および考案が行われている。
 これには地域差がありますが、それは諸外国にしても同様。均してみた場合、生息地保全を含めてよくやっているといえるでしょう。
 むろん、無謬というわけではありません。問題はあります。しかし、お気楽に批判してもそれがみんな該当するほど低レベルでもありません。
・不十分なケースがあるとするならば、それは金がないからである。
 都道府県レベルであっても、鳥獣保護管理の担当者は2 3人の場合がほとんどです。都道府県以下の自治体でしたら1人という場合が多いでしょう。当然、各種動物の専門家はまずいません。専門家への伝手を持っている職員も限られます。なぜって、伝手を作るためには、学会に出るなどして業界事情に通じる必要がありますが、そうした機会も限られるからです。これも金がないからです。保護管理計画にしたって、まともなもの作ろうとしたら都道府県単位で、1種について何千万円か何億か調査費が要るようになります。
 つまる、やるべきことは、わかっています。やるべきであることもわかっています。
 しかし金がないんです。
 専門家にしても、今年のような年にはあちこちから声がかかるでしょうが、平穏な年には稼げる仕事が足りなくなります。忙しい年には人手不足、ヒマな年には人員過剰になるわけです。ヒマな年にも大勢が食える体勢になっていないんです。

 つまり、自治体担当者の力不足が直接の原因ではありますが、そこをいじめてもどうにもならんのです。公務員ですから上から命じられて異動しただけで能力によって抜擢されたわけでもなく、能力をつけるために勉強する時間や機会やお金も与えられていないんですから。
 クマに限っても、関連学会、国内のものだけで年に10やそこらはあるんです。他の動物も含めたらもっと増える、というか被ります。庁舎にいる時間なんかなくなります。
 都道府県議会、ひいては議員に対して、「もっと予算をつけろ」と有権者として言わなくてはダメなんですよ。
 さもなくば、浄財の寄付が、研究者・研究機関、あるいは自治体にたくさん集まるか。
 食えるなら成り手はいます。研究機関に金があれば、自腹で捕獲・奥山放獣のサービスも可能になりますね。ドラム缶罠を寄贈するのもいいアイディアでしょう。
 
 最初の話に戻りますが、保護・保全であれば、今年のように、「その年たまたま捕殺数が多い」程度は、個体群存続に大きなダメージを与えません。
 成熟したツキノワは、栄養が足りているなら2年に一回2仔を生むのがノーマル、つまり1仔/年で生産します。過密で個々体が栄養不足で少しく低下したとしても、クマが利用するカロリーに対する生産数は大きくは落ちないでしょう。
 あの手の大型獣としては相当にr型(多産多死)的です。つまり、生息域のパイが例外的に狭まった年にはみ出したものがいくらか殺されても、パイが復旧すれば個体数も比較早く元に戻ります。
 言い換えると、不作年にはみ出したものが捕殺されるのは、通常年のパイに見合った個体がみっちり生息しているという証でもあります。不作年にも殺されるクマが出なくなったらほんとにヤバイんです。パイがあるのになぜか個体がいないってことですから。
 パイに見合った個体があるからには、真に困るのは、パイが中長期的にジリ貧になっていくことです。が、山間地農業の現状や人口動態から見るかぎり、そのリスクは高くないんです。唯一危ないかもしれないのは中国山地の個体群ぐらいですね。自然によくあるブレ程度でもあかんことになるぐらい個体数が少ないかもしれませんから。

 自然自体のブレは、別に人間のせいに限られずあるんです。
 私の住む町でも、今年、お仕置き後放獣されたまた町に出てきた一頭が殺されました。目撃例も夏までは例年並にありました。
 が、今年は、北陸各地とはどうやら逆で、数十年に一度であろう、クリとドングリの大豊作年なんで、今後はあまり軋轢がないでしょう。来春の生産数は多そうです。ということは、1〜3年後の不作年には問題が多発するであろう、ということでもあります。何頭か殺されるでしょうね。
 しかしそれも、中長期的に均した上で個体群にダメージがないなら、保護・保全の観点からは別にどうつてことないのです。

 愛護的観点含めてお気に召さないのだとすると、簡単なことでできることがあります。「各地域に充分な数のドラム缶罠を」運動とか。安価だし、檻の罠と異なり格子を噛んで歯を痛めることもない、軽量で持ち運びしやすい、便利な工夫があります。残るは数です。それに加えて、奥山放獣について、実施と住民への説明の双方に秀でた専門家を捕まえておいてくれ、でしょう。いずれにしても寄付を伴えばなおベターでしょう。

 イヌのしつけでも、ダメダメいうぱかりでは上手くありません。
 行政や議会に対しても同様で、批判ばかりしても好転しません。何をして欲しいのか判りやすく示して、うまくいったら強化、のがずっとお得です。

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