獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200503-83

Re:犬と家族>しつけについて
投稿日 2005年3月11日(金)23時50分 投稿者 みなみ

こんにちは。私は今年から獣医学科に進むものですが、おととしまで某大学でちょこっと行動学を学び、その後独学でしつけについて学んでいました。全てのトラブルに対して助言できるとは思っていませんが、私見ではあるかもしれませんが、ご参考まで・・・。(もっとしつけをしっかりと学び、技術を確立されている方がおりましたら、補足・反対・賛成などいただけるととてもうれしいです)

まず、しつけに関する飼い主の姿勢についての私のポリシーは「厳しく、かつ穏やかに」接することです。「厳しく」ということですが、悪いことをしたらガミガミ怒るということではありません。もしこのような態度をとると、犬には言葉が理解できないので何か相手がイライラしている(怒っている)と取るだけで、叱られている・注意されているという風に取る前に恐怖が身についてしまう可能性があります。「厳しく」とは、具体的に、声のトーンは低く、落ち着いたオーラを放ち、語調はきっぱりと短く言う、ということを指しています。「穏やかに」とは厳しくするだけでないやさしく暖かい落ち着いた口調、態度などを指します。といっても抽象的ですから…極端なことを言えば、子供のようなキャピキャピした態度ではなく遠くから見守っている母親のような感じを想像していただければ近いかな、と思います。

これが、飼い主のしつけ、服従訓練の際に取るべき態度だと考えています。もちろん犬を遊んであげるときは子供のようにキャピキャピとなってもらってかまわないと思います。ただ、もし遊んでいるときにとっさに従わせなければならなくなるといった状況では、上に書いたような態度を取る必要があります。つまり、このONとOFFの切り替えがうまくできればできるほど、犬にとって飼い主の態度が分かりやすいものとなるのです。なので、「なにやってるのよ!」「引っ張らないでよ!」「痛いってば〜」など感情をもろに出した言葉・態度などは、ある種獲物の悲鳴に似たものなので、その言葉の真意が犬に伝わるよりも、その興奮が伝染してしまい、それが続くようであればそのトラブルが解決されない原因になってしまう可能性があります。犬を叱るということについては下に書きます。

排尿のしつけについて、特に他のところにしてしまった場合ですが、そこの部分に鼻をこすりつけるということは正しいと思います。ただ、書かれていたように自分以外の家族が焦っているような気がすると書かれていましたが、真実さんが感じたのならば犬も「恐怖」という形でその気配を感じ取っていると考えていいのではないかと思います。

ここで、しつけとは、ということについて述べますが、「しつけとは犬(動物)が人間社会で生きていくために必要なルールを教えること」であって怒る(叱る)ことではないと私は思っています。なので、言葉の通じない大きな生き物(人間)から焦り交じりにグリグリと粗相をした場所に鼻を押し付けられることはどれだけの恐怖になるか分かりません。人間の子供と同じく(子供を産んだことはありませんが、小さな頃の経験等より)犬や他の動物は空気を読む力に長けてます。言葉が分からないからこそ、その場にいるほかの動物のオーラを感じてどう行動するかを考えるのです。なので、ガミガミと怒らずとも、最初は分からなくても上に記したような態度をきっちりと実践することができれば、十分犬に意図は伝わるのではと思います。

さて、排尿のしつけの続きですが、鼻をこすりつけるというのは犬に「おしっこ(この臭いのするもの)」「ここ(場所)」「だめ」と教えることです。決して鼻をこすりつけて苦痛を与えて教えるためではありません。なのでにおいのかげる位置まで鼻を持っていくということです。どたどた走って捕まえたりせず、そっと連れて来、静かに、ゆっくりと歩いてその場に移動するほうがいいでしょう。子犬なのでまだ家族との信頼関係も薄いと思いますので、不必要な恐怖を与えない方が今後のためと思います。そしてそっと首の辺りを持って鼻をその部分に近づけ、「だめ(いけない、でもよい)」と一言きっぱり言います。そのときに子犬と目を合わせるとこっちの気持ちをより伝えられるかもしれません。2〜3回言ってもいいと思いますが「ダメダメダメ」のように連続しては避けた方が良いと思います。目が合って、もう一度「ダメ」といっても良いでしょう。また叱るときの顔も怒った顔じゃなくて良いです。落ち着いた表情であれば、教えてあげるという気持ちで。期間ですが、犬によって個体差もありますし、教え手のスキルによっても変わりうると思いますので一概に言いませんが、1年たってもできない子はできないと思います。何ヶ月でできるようになる、という風に考えているとその期間を過ぎてもできない場合に飼い主側が焦ってしまい、犬にストレスをかけかねないのでしつけには1年以上かかることもある、という風に気長に根気よくやるような心構えにしておいた方がいいでしょう。

次に、叩くことについてです。無意味に叩くことはあまりよくありません。「無意味に」という意味ですが、人間にとって意味がある、例えば犬が噛んだ、服を引っ張る、人が来ると吼える、人が来ると飛び出していく、などの状況はたたいても意味がないと考えています。私なら体をたたく、は決してしないですが、痛みを教えることは非常に大事だと考えています。

噛み付くことを改善するために、まず「痛い」と言うことばを噛まれたら発するようにしてください。一言きっぱりと、「痛い」です。あとは、服を噛まれたりなどするときも「痛い」といってしつけるといいでしょう。一番最初に「痛い」を教えるときには完全に噛まれたときに言うようにします。その時に人間に興味がある子でしたら、ほとんどその人の目を見るでしょう、その時に相手の気持ちを読むのでここで取り乱して「いたい、痛いってば、やめてよもー」などと甲高い声を出し、手を振ったりすることは犬にとって遊んでいるようにしか見えないので、絶対にやめることをオススメします。怒った顔はしなくていいですが、冷静な顔をして「痛い」と犬の目を見て言います。このときに手を引っ込めたりすると、鋭い牙で逆に自分が怪我を負ってしまうかもしれないのであまり動かさないようにしてください。根気よくこれを続け、徐々に噛み付こうとしたらいうようにしていきます。遊んでいてつい噛んでしまったり、歯が当たってしまったときに「しまった…」という顔で人間の機嫌を伺うように相手を見るようになればしめたものです。そうのうちしなくなる(気をつける)ようになると思いますよ。また、犬に自分の牙が他の生き物を傷つける武器になることを犬にわかってもらう必要があります。特に、生後60日より前に親から引き離された子犬は兄弟犬との遊びの中で牙の痛さや駆け引きの何たるかを知る機会に乏しいと考えられます。ので、遊びの中で子犬の手を口に挟んで口を握ってわざと噛ませてやるのもいいと思います、キャインとちょっと言う程度の力で握ってくださいね。あんまり強く握りすぎて手に穴が開いたりするとまた大変ですから。

次に、犬と飼い主が1対多数であるときについて。これは実施するためには家族全員の十分な理解と団結が必要で、ことに家族で飼育する場合は完全にするには相当難しいと思います。現に自分の実家で飼育している犬もそうなのですが(笑)
どうしても、犬はかわいいものです。かわいい瞳で「くぅ〜ん」といわれたら「よしよし、ごめんねえ。ちょっとくらいならいいかしら」猫なで声で話しかけ、ついついこう思ってしまうものです。これはしつけがきちんとできている方も、あまり上手でない方も、しつけについてあまり知らない方も、全員がこの気持ちを持っていると思っています。ただ、言葉の通じない、ましてや種が違い歴史的背景の異なる動物を前に人間の世界での「ちょっとくらい…」という甘やかしは、特に初期段階では犬を混乱させるだけでなく、こうすると自分の主張が通るということを教えてしまうことに他なりません。誰もが
特に子犬の頃はかわいくてたまらないのです。なでくりまわしたいし、ぎゅっと抱きしめたいし、一緒に布団で寝たい。ましてや、厳しく冷たい態度を取るなんて…、これくらいの噛みかたならまあ痛くないしいいか。ちょっとくらい、人間のご飯上げても…。こう思うことも多いと思います。これを完璧に最初に書いたような態度に改めることができれば相当すばらしい家族でしょう。しかし、現実的に完璧には無理だと思っています。しかし、このことを家族全員で話し合い、考え、「厳しくかつ穏やかに」接することが、言葉の分からない犬にとって一番分かりやすく、主人として頼れ、犬としても家族としても社会的な自信をつけるために必須な課程だということを理解されるととてもよいと思います。

次に、犬に嫌なことをされたときの対処について書こうと思います。怒るとき、嫌だなと思うとき、怒鳴らないでください。おびえさせるだけでなく、逆に犬の神経を逆撫でしかねません。ここですべきは「無視」です。例えば、今まできゃあきゃあと一緒に遊んでいたのを「あっそう(言わなくていいですが)」という感じでころりと態度を変えその場を去ります。または犬には全然関係のないことをし始めます。このとき決して犬を振り返ってはいけません。無関心です。きっと遊んでほしい犬はなんとかして機嫌を取ろうとするでしょう。最初はクウンクウンと鳴く、後ろを追ってくるなどあります。しばらくして静かになったら何事もなかったようにまた遊び始めて大丈夫です。そのうち犬は、こうすると遊んでくれない、ああするとどっかいっちゃうなあ、など自分なりに理解し始めます。

あと、スワレ、マテ、フセについてですが、えさをもらうときにしかしていないとその時にしかしなくなってしまうことが多々あります。なので、エサや何かがないときにもさせて常にできるようにさせることが大事です。さらに、特にこの3つについてですが、例えば、スワレなら「スワレの状態を維持する」ことがこの命令の意味です。決してちょこんと座ることを指しているのではないのです。最初は座る格好をしたら褒めてください。徐々に時間を長くし、命令を発した人が遠ざかっても目の前にいなくてもできるようになれば完璧です。もしいなくなったときに、もしくは遠ざかったときに動いてしまったら、叱らず、また褒めずに静かに元の位置につれてきます。そしてもう一度「スワレ」をさせます。そして開放の合図(ヨシならヨシ)をして初めて「スワレ」の完了です。そしたら褒めてあげてください。
なぜこうまできっちりとするかというと、これで他のトラブルを回避できる可能性がぐっと広がるからです。たとえば、人が来て吼える、人が来ると飛びかかる、他の犬に吼える、すぐに飛び出すなどです。最初の2つは人が来たら「スワレ」または「フセ」などをさせて維持することができればトラブルになることも避けられますし、おとなしくしていた方が褒められると覚えてくれるでしょう。散歩のときに他の犬にすごく攻撃的になる場合でも「スワレ」をさせて首輪の元を持ち、静かに犬と目を合わせて大丈夫だよ、と伝えることで犬も興奮が抑えられるのではないでしょうか。こういったときに「キャー!!」などとリードを引っ張ることは犬の興奮を余計に助長させてしまう可能性があります。まず飼い主が落ち着きましょう。また、人に飛びつく場合、まず座らせてからゆっくりと近づいて触ってもらうことで事故を防げますし、飛び出す場合でも、外に出る前に戸の前で座らせて飼い主が外に出たあとで「ヨシ」と開放の合図をして外に出してあげることで未然に事故を防ぐことができます。などなど、まだ他にも有効になる場面が少なくありません。のでこの3つはぜひ徹底して行うことをおすすめします。

非常に長々と書いてしまいましたが、最後に。犬が教えていたことを成し遂げられたとき、少しでも進展があったとき、そのときは高い声を出して身振りも大きく褒めちぎってあげてください。このときにオーバーリアクションと共に、犬の気持ちよがる部分をなでてやるのもいいでしょうし、いつもはあげないフードをあげるのもいいでしょう。とにかくしっかり褒めることです。ただ、あまりにも長く褒めるのは良くありません。長くて2〜3分でしょう。もしご褒美として遊んであげるのであれば、この限りではありません。

真実さんがどんな犬種を飼っておられるのか分かりませんが、オビディエンス(服従心)が高い犬種ほど、犬と飼い主との間にある信頼関係がものをいうようになります。最初に書いたような態度でONとOFFを使い分ける飼い主が犬にとって頼りがいのある飼い主になる可能性がありますが、それに加えてお互いをよく知り合っている、ツーカーの中であることが必要となってくるでしょう。これをどこまで求めるかはその人のその犬を飼う目的によって必要に応じて高める必要があります。子犬の場合、来た時はニンゲンであるということ以外は犬には分かりません。家族が犬に理解してもらうには、手っ取り早くは遊ぶことです。この人と遊んでるととっても楽しい!もっと僕のこと見て!もっと遊んで!気に入られたい!と思わせることが大事なのです。なので、遊ぶときには遊ぶ、しつけるときには態度をきちっと変えて犬に向かう。犬は遊ぶときは遊び、厳しいときは厳しい人が大好きです。厳しいの度合いは犬種によって変わると思いますが。

しつけは根気よく楽しんでするものです。頑張ってくださいね♪
家族のご理解を得られることを祈っています。

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