獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200606-347

Re:アスペルギルス症について
投稿日 2006年6月26日(月)21時57分 投稿者 はたの

私が獣医師でないこと、イヌのアスペルに関わったこともないこと、を再度申し上げた上で、少しだけ踏み込んでみます。

 私が濃く関わっているある種の鳥では、アスペルはきわめて致死率の高い重要な疾病です。致死率高いどころか、アスペルの確定診断が出て救命できたケースを知りません。
 「疑い」としては、第一段階として、飛行がわずかにおかしい、声がおかしい、第二段階として元気喪失、食欲不振、若干の削痩、第三段階として衰弱、顕著な削痩、と推移します。進行は速く、第一段階からでも数週間といったところです。
 他方、検査としては、ドイツ製ペンギン向けの24時間で結果が出るが確度が低い検査キット、気管スワブからの培養(採材の確率は術者次第、約一週間)、血中の抗体価(確度高し、約一週間)あたりが知られています。
 第1段階で気づけば救命できる、という主張もあるのですが、確定診断がついたものかは不明です。イヌに比べても、検査によるストレスがきわめて大ですから、「疑わしきは投薬」であり、「どうせ投薬するのに検査しても仕方ない(検査結果は後から振り返る役には立つが、その個体の救命率には寄与しない)」ことが多いのです。
 ですから、「疑い→検査→確定→投薬」だと助からないし、「疑い→投薬」の場合は助かっても、それが本当にアスペルだったのかは判らないことが多いのです。それどころが、一番ありがちなパターンは、アスペルを疑いつつうろうろしている間に死亡して、解剖してみたら判明、であったりします。
 肝毒性については、疑い以上であれば無視します。死んでしまえば肝臓が元気でもしかたありません。
 移動等のストレスが予想される際に予防的に与える場合には考慮しますが。

 むろん、イヌと鳥は異なるでしょう。気嚢がないだけでもだいぶんシンプルなはずです。
 
 アスペルと判ってからは一年でなく3ケ月というのなら、奏功しないから次の手を、というのに、理解できる範囲ではあります。
 ただ、その「次の選択肢」が「手術だけ」というのはいさかか貧弱に感じます。
 投与法や頻度や量もありますし、多剤併用、徐放性のカプセルに詰めて患部に埋め込みというのも考えられるでしょう。それぞれに理由があって好ましくないのだとしても、「選択として提示される」ことはあってもよかろうと思います。
 病巣とイヌの組織とともに無くしてしまえ、という枠組みでも、開胸による外科的な処置、内視鏡による処置、温熱、放射線、銀のプレート埋め込む、いろいろとあり得るでしょう。
 多様なアイディアが浮かべば、それぞれについての主作用と副作用、奏功する見込み、奏功した場合の後遺障害などを比較することができますし、ダメな案は捨てればいいだけのことですが、そもそも浮かぶアイディアが貧弱だとどうにもなりません。
 主治医に、「浮かんだアイディアを全部並べてみせてくれ」と頼んでも良いように思います。
 イヌの真菌症に特に強い病院は存じませんが、主治医自身が、あるいは、主治医が気軽に相談できて実際に相談している誰かの中に、真菌症に特別な関心があるひとがいるのかは確認なさってもよいように思います。
 新しい抗真菌薬のイヌでのデータがない、というのがどういう意味かも確認なさると良いように思います。「どこまで調べたのか」「その調査は十分に網羅的なのか」といったところです。副作用による肝障害もたしかに悲惨なのですが、菌糸が肺を貫いて伸びて多臓器不全になったりすると、やはり悲惨なことになります。投薬して、呼吸器症状は軽快した、と思っていると全身状態が悪くなって死亡、解剖してみるとあっちにもこっちにも菌糸が伸びていて・・・というのは何例も見ています。

 肺葉切除による後遺障害だけを心配してもしかたないと思うのです。いろんな選択肢をずらっと並べた上で比較するのでないと。

 鳥での経験から、私は急ぎすぎるほうの偏見を持っているおそれが大ですが、もし私だったら、あまりのんびりはしません。鳥では3日単位なのをイヌなら3週間単位にするぐらいでしょうか。

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