獣医師広報板ニュース

意見交換掲示板過去発言No.0000-200611-115

36年ぶりの狂犬病発症
投稿日 2006年11月17日(金)12時28分 投稿者 プロキオン

すでにマスコミやネットでニュースが流れていますが、京都市の男性がフィリピン渡航
時に犬に咬まれ、帰国後、狂犬病を発症したそうです。

狂犬病ウイルスは、咬傷部位の筋肉細胞内で増殖した後、知覚神経や運動神経のへ侵入
し、脊髄を経て、脳へと達します。多くの場合は大脳辺縁系で増殖するために、興奮状
態が現れて、犬であれば咬傷事件へと繋がります。
海外青年協力隊へ参加した獣医師の手記などには、自転車に乗っていたら、いきなり路
地から飛び出してきてとびかかられたというような記述もありました。また、そのよう
な一方で、住民がグターとしていて元気がないと連れてきた犬が実は「麻痺期」の狂犬
病であったとかの話もありました。「興奮期」を経ることなく、いきなり「麻痺期」の
犬に遭遇することもあるので、うっかりできないという話で結ばれていました。

現在、世界における狂犬病発生国は、圧倒的にアジアやアフリカが多く、毎年推定で3
〜4万人の死者がでています。
今回のフィリピンにおいても、およそ年に500人程度の被害が継続しているそうです。
狂犬病は長い潜伏期をもつために、受傷感染した患者が自覚症状の無いままに長距離を
移動してしまったり(国をまたいで他国へ)、ウイルス血症を起こしにくく発症するま
で、有効な診断方法がありません。
このウイルス血症がおきにくいということは、ウイルスがリンパ球のような免疫細胞に
捕捉されて抗体を作る作用が弱いということになります。このために発症前の診断が容
易でないうえに、発症してしまったら、ほぼ100%と致死率が高いこととなります。
また、同じ理由からワクチンの接種も単回では、なかなか満足のいく予防効果がえられ
ず、複数回の接種が必要となります。
今の我が国における狂犬病予防接種の接種率は、推定で50%くらいといわれています
が、子犬の頃に接種したきりというのでは、一旦我が国狂犬病が侵入した際には、予防
効果は期待されない方がよろしいでしょう。

狂犬病はあらゆる哺乳類が感染対象ですから、犬だけに気をつけていても不十分です。
まず、自らが防衛することが大切です。有病地に渡航される予定がある方は、事前にワ
クチン接種をするようにしてください。
国内の犬飼育者の方達にも 今一度ワクチン接種の必要性を考えていただけたらと思い
ます。「狂犬病予防法」は、人間を守るために制定された法律であって、感染してしま
った犬の処置というのは、ひとつしかありません。また、治療したくてもできないので
す。
できることは事前にワクチン接種をきちんと済ませておくことだけなのです。


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