獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-199905-62

ワクチンについて補足します
投稿日 1999年5月14日(金)20時07分 村山

こんにちは、はじめまして。ある大学病院で研修医をしている獣医師です。最近の話題でワクチンについて討論されていますが、これらの断片的な情報では皆さんが戸惑ってしまうのではないかと思い、投稿いたします。hiroさんの投稿によると、2種類の獣医さんの意見があるようですが、このままでは片方の獣医さんの信用がなくなってしまいますので、私なりの解釈を補足させていただきます。

 まず、ワクチンには生ワクチンと不活化ワクチンがあります。これは正太さんの書き込みを参考にして下さい。そして、これらのワクチンにはそれぞれに利点と欠点があります。ワクチンによって作られる抗体というものは一度作られると抗原(ここではワクチン、動物の体はこの抗原の形を確認して異物かどうかを確認し、異物であれば攻撃を始めます)が無くなった後もある程度は持続しますが、特に不活化ワクチンの場合はいずれ抗原が無くなりますし、生きたウイルスよりは抗原性が弱いため、補強接種が必要となる場合が多いのです。一方、生ワクチンは病原性を取り除いた病原体そのものを動物の体に投与しますから、その病原体が体の中で増殖します。ですから、病原体が増殖を続けている間は常に感作され抗体を作り続けます。持続感染が続くのならば「原則的」に生ワクチンの場合は生涯免疫が続くというkeatonさんの主張もあながち間違いではありません。しかし、産生された抗体によってワクチン株が叩かれてしまう可能性やいずれ活性が落ちてしまう可能性もありますので、すべてに関して当てはまるわけではないでしょう。あくまで「原則的、理論上」です。これについてはそれぞれのワクチンに使われる病原体の活きの良さによるでしょう。

 大切なのはワクチンによる「副作用」を知ることです。不活化ワクチンの場合はそのワクチンの効果を上げるために化合物を混ぜるので、それによるアレルギーやショックが起こることがあります。そして、生ワクチンの場合は人工的に遺伝子をいじったり、化学処置をすることによって病原性を無くしていますが、感受性の高い動物に接種したときに発症する可能性がありますし、復帰変異といって元の病原性を持つものに戻ってしまう可能性があるのです。ですから、狂犬病のワクチンが生ワクチンだったら大変なことになるわけです。実際にそのような症例は沢山ありますので、ワクチンは神様の薬ではなく利点もあれば欠点もあるものだということも知って下さい。動物にも大きな負担を与えているのです。
 自然感染を無くす目的だけで考えるならワクチンは沢山打った方が無難かも知れませんが、それに比例してワクチン株による感染の危険や副作用も増します。ですから、状況によってはワクチン接種を最小限におさえることもあるのです。おそらく製薬会社では接種後どの程度の期間高い抗体価(抗体のパワー)を保てるのかは長期間にわたっては調べていないとおもいます(現実は知りませんので調査してみます)。ですから、あるワクチンの取扱説明書にも「年一回の補強接種が望ましい」と書いているのではないでしょうか?大事をとってと言う意味でしょうね。しかし、独自の経験や調査によって決めている先生もいらっしゃると思いますので「このワクチンは最初の年だけうてばよい」というのを完全に否定することは出来ません。もちろん10匹とか20匹という多頭飼いの家庭では年一回程度の補強接種が必要かもしれませんが、飼育状況や病気の発生確率を考慮して、「低い確率の感染を防御するか、低い確率の副作用を避けるか?」という観点から考慮するとワクチンの良い作用と悪い作用のバランスを考えて方針を決める場合もありますので、そこを勘違いしないで下さい。ワクチンの種類にもよりますが、最初の一年だけワクチンを接種すればよいと考える先生も毎年接種すべきだという先生もどちらもそれぞれ考えて選択しているのだと思います。医療とは良い面だけを追いかけているのではなく、その薬やワクチンの副作用も考えて状況に応じていろんな選択をする必要があるものなのです。
素人考えで「この先生は信用できない」なんて決めつけないで下さいね。
(実際はどうかはわかりませんが・・・)

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