獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200205-41

フィラリアになっちゃった犬の話
投稿日 2002年5月11日(土)01時03分 パールちゃん

前にも紹介した話ですが、フィラリアの実態を知ってもらいたくてまた書きます。

我が家は故・佐々木くんと現役ダイちゃんがフィラリア感染犬。
2匹ともおとなになってからうちに来たのですが、
そのときすでにフィラリア陽性犬でした。

迷子犬だった佐々木くんは、うちに来た当初から激しい咳と呼吸困難でした。
咳は気温が下がってくる夕方からがひどく、
深夜から明け方にかけてずっと苦しげな咳をしていました。
ゴホッゴホッから始まってグェッグェッ、グェ〜ホッグェ〜ホッグェ〜ホッ。
全身を振り絞るように咳をするので体力の消耗も激しく、朝になるとぐったりしていました。
咳をしていないときもノドの奥のほうでゼーゼーグーグーと音がするような呼吸困難がありました。
かかりつけの獣医さんにすぐ連れていくと、
先生は「こんなに苦しんでいるのはかなりひどい」と緊急で外科手術を決行。
ノドのところに穴を開け、血管に管を通してフィラリア親虫をつまみ出す手術です。
肺動脈からソウメンのような2匹の親虫を取り出して無事に手術成功。
あとになって先生から聞きましたが、
これほど重症だと血管が弱くなっていて管を通すときに血管を破ることがあるし、
貧血もひどいので手術成功の確率は低かったんだそうです。
すっかり元気になった佐々木くんはその後は通常のフィラリア予防をして、天寿をまっとうしました。

ダイちゃんは咳や呼吸困難はなく、貧血がひどい状態でした。
血液検査で顕微鏡をのぞいた先生は「うー、うじゃうじゃいるよ」と絶句していました。
そして説明。
「このままにしていたらいずれ心臓内や肺動脈が親虫でいっぱいになる。
そうなったら苦しんだときの佐々木くんよりもっとひどいことになってしまう。
今しておく最善のことは、今ダイちゃんの体内にいる子虫を全滅させること。
それには砒素系の強い薬を使うから、副作用でもしかしたらダイちゃんの命にかかわる。
薬に打ち勝つことができても、死んだ子虫が血管に詰まってしまう二次作用がある。
それもダイちゃんの命にかかわる。
この2つの壁をクリアできたら、あとは普通のフィラリア予防でいい」。
私は迷うことなく子虫撲滅を決心しました。
佐々木くんの苦しみを二度とほかの子にさせたくなかったから。

子虫撲滅の投薬をするまで少し期間をあけました。
その間、うちに来たばかりで栄養失調だったダイに食餌と運動で体力をつけさせ、
外飼いだった環境を室内飼いに変えて慣れさせました。

いよいよ投薬の日。
投薬後は絶対安静にさせるため入院させる方針を取る病院が多いそうですが、
かかりつけの先生は「おうちがいちばん派」なので、
自宅で、私の手から薬を飲ませました。
これによって死んじゃうかもしれないんだと思うと手が震えました。
いつも通りの食餌後、牛乳に混ぜた薬を飲まされたダイは、いつも通りに一眠りの姿勢をとりました。
私は隣の部屋のガラス窓からずっと眠るダイを見ていました。
それから2時間、ピクリともしないダイが心配で、私は近くへ行きました。
ダイは動かないまま、うっすらと目をあけました。
いつものように起き上がろうとしましたが、手足に力を入れられずもがきました。
それでもやっと立ち上がりましたが、じっと立っているのがやっとの状態で、
ユラユラと体が揺れ、揺れをこらえられなくてヨロヨロとよろけました。
目の焦点は合わず、こっちを見ているのに私と目が合いません。
なぜても反応はなく、いつもビュンビュン振るしっぽはダラーンと垂れたまま。
ダイ本人も「立ってらんなーい」と思ったのか、またうずくまって目をつむってしまいました。
貧血チェック。
健康な犬はきれいなピンク色の歯ぐきをしていますが、
慢性貧血のダイはこれまではほんのうっすらとピンクくらいでした。
それが唇をめくって歯ぐきを見てみると真っ白。血の気がありません。
そのとき初めて砒素系の薬の恐ろしさを実感しました。

先生は一晩越せれば薬の副作用は乗り切ったと考えていい、
とにかく安静にさせておくことが肝心、
異変があったら何時でもいいから電話を、と言ってくれていました。
近寄ると起きてしまいそうなので、その晩は窓越しに見つめるだけで朝を迎えました。
呼吸のたび苦しそうにおなかが盛り上がるのを見ながら、
「息をしてる、生きてる、苦しそう、ごめんねダイ、息をして、苦しいけど、生きて」と祈りつづけました。

夜が明けました。
ダイは自分からそっと立ち上がりました。
近づいてみると、まだふらつくけれど、目には力が戻ってしっかり私を見ました。
庭に出ておしっこがしたいと言いました。
ドーンと倒れる心配もあったので、真横に付き添って庭に出ると、
2〜3ヶ所でおしっこを済ませたあと、ゆっくり歩いてダイは自分から寝場所に戻りました。
そして、「あー、だるい」と言うように丸くなり、
それからお昼まで、またこんこんと眠りつづけました。

先生に報告の電話をすると、
「投薬から12時間以上経ったし、自分から庭に出て歩けたのなら、薬に勝ったね」、
そう言って喜んでくれました。
「あとは説明通り、死んだ子虫を血管に詰まらせないために3週間は厳重注意。
最初の1週間は絶対安静と思って排泄以外はなるべく動かないように。
残り2週間も長く歩いたり走ったり遊んだりは禁物。
その3週間を乗り切ったら散歩解禁。がんばって」。
ところがダイは、投薬でぐったりの翌日午後からもう庭で走り回ったり、
看病室にした一部屋の中で走り回ったり、
薬の副作用も子虫の死骸もなんのそので、見かけはみるみる元気を回復していきました。
もともと物分りのいい子なので散歩を催促してうるさくするようなことはありませんでした。
が、じっとしているのはやはり耐えられないようで、
適度に庭や部屋の中をうろついていることがストレス発散になって肉体の回復を助けたようです。
もし絶対安静を律儀に守ってケージに入れたり短くつないだりしていたら、
これほどまでに回復しなかったかも、と今になって思います。
それでも、お外への散歩は3週間きっちり我慢しました。
散歩解禁の日、ダイは嬉々としてあちこちにおしっこをかけまくり、
復活を匂いによって宣言して回りました。

子虫撲滅から3年半、ダイは元気です。
命をかけて砒素を飲んだダイ、手術によって苦痛から解放された佐々木くん、
フィラリアって、かかってしまっても治療においても、こんなにも犬を苦しませるんです。
こんなことになる犬が1匹でも減ることを願っています。
日本では飼い犬総数の50%ちょっとしかフィラリア予防薬をもらっていないそうです。
この数字50を100に近づけるために、
フィラリアになるとこんなに苦しむんだよという話をもっと知ってもらいたいです。
長々とすみません。 #いつも長いぞ ('、' )>゛ ポリポリ

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