獣医師広報板ニュース

イヌ掲示板過去発言No.1100-200409-67

>たたみさん 近親交配
投稿日 2004年9月19日(日)13時30分 投稿者 プロキオン

犬の品種改良が近親交配の賜物という考えは誤っていますよ。

犬の改良というのは、元々貴族の趣味や遊びという要素が出発点とされて
いますが、それは近親交配にならないように血統の遠い個体群を維持する
ことが必要だったからです。
血統の管理や多くの個体群を維持できるだけのお金と人的な労力を費やす
ことが貴族にしかできなかったからです。また、自らが新しい品種として
世に発表したとことで、必ずしも認めて貰えたり、受け入れて貰えたりし
た分けではありません。費やさられる労力と費用に比較して、あまりにも
得られるものがすくないので、庶民にはついていけなかったのです。
まあ、其れ故、のめり込む貴族がいたというこにもなります。

そもそもが犬の品種は、初めからこんなにあったわけではなく、まだ「犬
」とも呼ぶことができない動物であった頃から、世界の各地で、さまざま
な形態が存在していたのです。むろん、人間も現世人類であったという保
証もありません。
とにかく、その頃から人間は犬と暮らし、その形態や使役目的で犬とつき
あってきたのです。そして、その中から、自然発生的に様々な品種の元と
なる犬達が生まれてきて、また雑種化も生じ、品種の「健康な存続」のた
めに犬の品種の固定化(雑種化の防止)が始まったのです。
そのまま、放置していたのでは、今現存する品種が崩れてしまうというこ
とから、スタンダードと登録が始まっているのです。
この中には、かつて存在した○○犬という犬の再現というものもあります
が、その際にもできうる限り姿形をよく留めている個体で、かつ血縁の遠
いもの同士ということになります。
血縁の遠いもの同士というのは、理由は必要ですか?

# 朱鷺を見れば分かりますよね、日本生まれの朱鷺はいなくなってしま
  いましたが、今、国内で飼育されている朱鷺の数は2月現在で39羽
  になります。
  数だけで見れば、増殖しているのですから、絶滅の危機から抜け出す
  希望が見えてきたことになりますが、増えたのは、日本生まれの個体
  の数だけであって、「種」としての隆盛とは異なります。同じ両親か
  ら生まれた子供達同士での交配では、佐渡の朱鷺が滅んでいったのと
  同じ歴史をくり返すだけなのです。
  同じ血を持つもの同士の交配であれば、いくら今の個体数が増えても
  絶滅を1世代あるいは数世代先延ばしにするだけにしかすぎません。
  朱鷺には、まだ新しい血が必要なのですが、それは朱鷺の実家である
  中国においても台所事情が苦しいのには違いないのです。

今、世界中の動物園では、そこで飼育されている動物達の血統登録をして
近親交配にならないような繁殖に努めています。日本とメキシコの間でも
パンダが行ったりきたりしています。
単に個体数が少ないからではありません。近親交配を続けていれば、その
種はやがて滅びてしますからです。動物に関わるもので、種あるいは品種
の隆盛を願うのであれば、「近親交配」は避けなくてはならないのは自明
の理と言えるのです。

たたみさんは、品種改良は近親交配の賜物とおっしゃられていますが、で
は、品種改良の盛んな家畜の世界ではどうなのでしょうか? 
バブル全盛時には各地で「銘柄牛」、「銘柄豚」が自治体の力によって生
まれてきました。これらは、どう維持されているのでしょうか?
これらの家畜は、多元雑種としてつくられた品種ですが、やはり原種の元
畜が維持されていないと、形態やその能力が崩れていってしますのです。
牛は牛、豚は豚であることには相違ないのですが、花々しく売り出した時
の能力は失われてしまうのです。
但馬牛とか飛騨牛とかの確立された銘柄は、昔から、その血を過去から未
来へ継いでいく努力なしには維持できないのです。

物の本によれば、20世紀初頭においては、犬の種類は400とも800
とも言われています。
新しい品種をつくり出そうとする、あるいは、品種の復元を使用とする過
程において「近親交配」を用いたとしても、それだけでは駄目なのです。
維持できないのです。
「偶然の賜物」で生まれたものは、結局滅んでいくのです。「育種」とい
う作業が必要になるのです。
猫の品種で言えば、「マンクス」や「スコティッシュホールド」等は、純
血を守ろうとして、近い血統で交配すれば、致死遺伝子を生まれてくる子
供達に呼び寄せてしまいます。これらの品種を維持しようとすれば、その
交配には人間が関与しなくてはなりません。

近親交配は、誰にでもできることです。飼い主が子供でもできちゃうこと
です。世間の誰もそれを「偉い」とか「りっぱ」とかの評価しません。
また、それは「雑種」と呼ばれるものであって、新しい品種とは言われま
せん。
品種と認められるためには、「新たな形質」と「健康に維持」されている
ことが必要なのです。
新たな形質というのも、本当は「新た」ではなく見過ごされてきた形質な
のです。その発現には別に近親交配でなくてはならない理由もありません。
人間が捨て去った形質の中にもあったかもしれません。むしろ、気づかれ
ることなく消えて行った形質の方が多いかもしれませんね。
単にその形質に着目して、それを伸ばそうとして人間がいたかどうかに過
ぎないと私は考えます。新たな形質を「増やす」のには近親交配は手っ取
り早いでしょう。でも、「増やした」と過去形に持ち込むには、不十分な
のです。「増やして」「維持する」のには、不都合なのです。
「固定化」のためにも「維持」のためにも、障害となるからこそ、関係す
る人達は、これを排除しょうとするのです。
単に倫理的な理由ではなく、実害があるからこそなのです。

これは、何も昨今になって、急に分かったことではなく、前々世紀にはす
でに当たり前のことだったはずです。
近親交配をやった者が1人としていなかったとは申しませんが、ありがた
がるようなことでもなかったように思いますね。


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