獣医師広報板ニュース

ネコ掲示板過去発言No.1200-200709-41

セカンドオピニオン
投稿日 2007年9月19日(水)12時09分 投稿者 プロキオン

セカンドオピニオンという言葉がありますが、私はこの言葉は大きく誤解されている方が多いように感じています。

獣医師の世界では「後医は、名医」という格言のようなものがあります。最初に罹った医者でよくならなかった病気が、後から罹った医者では良くなった、きれいに治ったということに由来していますが、決して後の医者が名医であるという意味ではありません。
先の医者であれこれ手探りで治療しながら、いろいろ試しているので、後の医者は除外診断がやりやすいので、手間暇がかからない。駄目だった治療はするまでもないし、治療の方針もすでに搾られてきているので、後から診療する医者に一歩のアドバンテージがあって有利だという意味です。つまり、「後医は、名医」とは、両方の医者に根本的な差はないよというのが前提のお話なのです。
セカンドオピニオンに言い換えますと、いつも2人目の医者が正確で正しいとは限らないということになります。1人目の医者の方がより正確に病態をとらえている場合もあるということなのです。実力が同じくらいの医者同士であれば、1人2人の意見ではなく、それこそ10人くらいの意見を聞いてみないと「通り相場」とはならないのです。
では、この「通り相場」を信じればよいのでしょうか?  10人中8人の医者が足の骨折で整復できません、断脚ですと診断したとして、あとの2名の中の1人が見事に治してくれたとしたら、どのようなことになるのでしょう。

何が言いたいのかというと、セカンドオピニオンが常に正しいという保証はどこにもないのです。街の動物病院でセカンドオピニオンを求めるのであれば、2軒目の動物病院で満足してしまってはいけないのです。
セカンドオピニオンを足で集めることができないのであれば、その病気の専門家として衆知されているより知見のある動物病院を訪ねなくてはならないのです。
セカンドオピニオンとは、そのような努力を伴わないと得られないものなのです。別の獣医師に尋ねてみたというだけでは、セカンドオピニオンと呼ぶには不足なのです。

今回、トラママさんは気を悪くされてしまったかもしれませんが、トラママさんに限らず、「意見交換」の方でもセカンドオピオンとして意見をお願いしますは、しばしば登場してきます。
しかし、患者を実際に診察もしていないセカンドオピニオンなんてあるのでしょうか?
そんなものは、ただの無責任な放言でしかありません。
「意見交換」の方で呼吸促進剤の「ドプラム」投与への疑念の投稿がありました。これも投薬自体は不思議ではないと思います。でも、どのような薬用量で、どのくらいのスピードで、どのような経路でという問題になると、患者の容態を診ていない者には適切な処置であったか否かは判断できません。
同じく、「意見交換」でFIPの腹水を抜くか抜かないかという問題で、私は外科的には抜かない、内科的には抜く、外科的であっても患者の状態では抜くという答え方をしています。
患者は生きているんです、工業製品ではないのです。同じ患者であっても容態によって、やることも異なってきます。そして、これを診療する獣医師も替わるということであれば、さらに治療に相違が出てくることは、もう当然といえば当然なのです。
そのどれが正解なのかというのは、分からないのです。治療にたずさわる獣医師にしてみれば、誰もが自分が正しいと信じているわけなのです。( わざわざ間違った治療をしようとは考えてはいないでしょうから )

では、私が言った10人の獣医師の意見(診察)を求めることが、実際に可能なのでしょうか? これには私自身が疑問を感じざるを得ません。
また、10人に診察してもらうことが可能だったとして、では、その中の誰に患者を託すことになるのでしょうか?
結局は、飼い主さんが一番納得した相手ということになると考えられるのではないかと思います。その根拠はなんなのでしょうか? そしてその選択は正しかったのでしょうか?
このように考えてくると、セカンドオピニオンという言葉が、実にあやふやなものに思えてきます。
結局、私は「信頼」だと思うのです。飼い主さんに自ら学ぶ意思があって、獣医師とやりとりができ自分の頭で考え、自分で判断を下すことができるということが大切なのです。
それがなければ、「信頼」は成立しません。「信頼」と「おまかせ」は別のものです。
飼い主さんがしっかりしないままのセカンドオピニオンは、ただ、病院を渡り歩くだけのことになってしまうだけのことではないでしょうか。

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