獣医師広報板ニュース

ネコ掲示板過去発言No.1200-200804-25

Re:吸収糸について
投稿日 2008年3月15日(土)11時33分 投稿者 プロキオン

御心配いただいております尿石症の猫なのですが、今朝からトイレに座っています。どうも出ていないようです。またか、の心境です。もうちょっと膀胱が大きくなってくるか様子を見ますが駄目なら、またですね。
思い切って「会陰尿道婁」の手術をしてしまうかと口にしたら、家族から反対を受けました。何回もくりかえすよりは、手術の方がかえって親切なのですが、獣医師の妻といえども誰しもがそれを理解できているということでもないようです。

さて、野良猫の避妊手術に吸収糸ということですが、これも手術される先生が決めることですから私がああするべき、こうするべきということはできないです。

ただ、私見になりますが、私なら野良猫こそ吸収糸を避けます。使わないようにします。吸収糸の本来の使用部位である体内に用いるのであれば、別にどうということはありまえんが、仮に皮膚縫合に用いるのであれば、私は反対です。吸収糸はナイロン糸に比較してかなり弱いです。
吸収糸で皮膚を縫合した場合、1週間後の抜糸まで全部の糸が残っているということはまずありません。かならず、糸の数は減っています。猫が術創を舐めるのに対して吸収糸はきわめて弱いです。「意見交換」の方でウサギの皮膚を縫った吸収糸がいつまで残るのかという質問がありましたが、あちらでレスしたようにメーカーが示している吸収期間や傷を保持できる期間というのと、皮膚を縫合した期間というのでは、著しい差異があります。あちらでは、生体の炎症反応によって分解されると記載しましたが、これは加水分解が先んじて起こり、そのあと炎症反応によって分解吸収されます。糸が体表面に露出していて、猫の舌で舐められたり、唾液の影響を受けているのは吸収糸にとってはよいことではありません。他にもブレイド糸は体表面の汚れを皮下に呼び込んでしまうおそれもあります。
つまり、野良猫であるほど、人の管理が行き届かない猫であるほど、吸収糸をもちいるべきではないように思えるのです。実際、吸収糸を用いて皮膚縫合した猫の傷口がひらいてしまったこともあります。
それがありましたので、捕獲しがたい猫とか触ることができない猫には決して吸収糸はもちいないようにしています。ナイロン糸やステンレスワイヤー糸にしても、皮膚から抜糸できなくても、それが問題をひきおこすということはまずありません。アメリカなんかのオペのビデオを見ますと、ドクター○○と呼ばれている著名な先生方においても腹腔内でもステンレス糸で縫っていたりして、びっくりさせられます。いかにもアメリカ的医療だなと思いました。
私の同門の先生が横浜におりますが、そちら方の先生方が野良猫の避妊手術をした際には、皮膚縫合にはステンレス糸を使用したそうです。こちらの糸ですとかなり長期間に亘って皮膚に残っていてくれるので、手術済みの猫であるかどうかを捕獲した段階で見分けることができるので、かえって都合がよいという理由からだそうです。

仮に吸収糸で皮膚縫合をしたからと言って必ずしも傷口が開いてしまうということではありませんし、大半の猫ではなんとかやり過ごすことができるかもしれません。
しかし、逆に考えますと、ナイロン糸で普通に縫合して抜糸をしなかったとしても、1ヵ月後にどれだけの猫でそのナイロン糸が残っているでしょうか? ほとんどの猫で残っていないはずです。
であれば、私は野良猫に吸収糸を使用する気にはなれません。より、安全確実な方を選びます。


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