獣医師広報板ニュース

ウサギ掲示板過去発言No.1500-200408-98

術後の抜糸について
投稿日 2004年8月29日(日)16時42分 投稿者 プロキオン

手術後の抜糸について、誤解されている方が多いようなのですが、吸収糸
で皮膚を縫合するとことが本来は異例なことなのです。

吸収糸は、元々は「獣腸線」といって、動物の腸管の組織から由来してい
て、それを寄り合わせて糸にしてあったものです。
異種蛋白質なので、白血球や食細胞によって破壊され、その後吸収される
ようになっています。つまり、生体の炎症を引き起こして吸収されるよう
に造られています。
そのため、この炎症(吸収分解)が起きる部位においては、組織が無菌的
でないとなりません。すなわち、皮膚のように外界と接している組織に吸
収糸を使用してしまうと、寄り合わされた糸(吸収糸)の毛管現象によっ
て皮膚表面の汚れや細菌を皮下組織に侵入させてしまう可能性があって、
術部を化膿させたりする恐れもあったのです。
したがって、「吸収糸は皮膚の縫合に用いてはならない」の不文律があっ
たのです。

ですから、本来的には、吸収糸を皮膚縫合に用いることの方がおかしかっ
たのですよ。

ですが、近年、合成吸収糸も多々開発されてきて、中にはモノフィラメン
トの糸もできてきましたので、それで例え皮膚でも縫合してしまう先生も
でてきているわけです。
ただ、それでも皮膚や皮下組織に炎症を誘発して、分解吸収を図っている
わけですので、この過程は、患者にとっては必要のない余計な炎症なので
す。
そして、結合力についてもナイロン糸には、劣ります。

メリットとされる抜糸行為が必要でないという点も、私はメリットとは考
えていません。
術後7〜10日後の抜糸は、面倒といえば面倒なのですが、患者の術後の
回復をみるには(患者さんに来院してもらうには)、ちょうど良い理由だ
と思っています。
# 別にそれで抜糸料金はいただいておりません。抜糸までが、手術の一
  環ですので。

ですから、私の場合、体内であれば、吸収糸も使用しますが、皮膚縫合に
は吸収糸は使用していません。
また、体内組織であっても、結紮に力が必要、長く確実に保持したい部位
であれば、躊躇うことなくナイロン糸を選択しています。

私が皮膚縫合に吸収糸を使用するとしたら、抜糸に困難を伴うような相手
になるか、来院して欲しくない相手ということになるかな?
少なくとも、なんでもかんでも吸収糸で縫合してしまう医者が進歩的とい
うことにはならないはずですよ!

吸収糸もいろいろあって、張力や保持期間がそれぞれ異なりますますので、
目的や適応組織によって使い分けるのが、本来の正しい使用方法になりま
す。そして、その原則は体内組織適応です。


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