獣医師広報板ニュース

ウサギ掲示板過去発言No.1500-200503-13

ぷちさんへ
投稿日 2005年3月5日(土)12時30分 投稿者 プロキオン

謝られる必要はないですよ!

ウサギで粘液肉腫というと、ずいぶんと紛らわしい話でして、「粘液腫
症」という疾病が、かなり有名でけっこう本に記載されていたりします。
この掲示板を読んでいる方に、この疾病と区別して理解していただきた
かったのと、粘液産生細胞の腫瘍なのに何故「癌腫」ではないのかとい
うことを、私が説明しておきたかっただけのことですから。

と、言いますのは、獣医師広報板は、発言される獣医さんは少ないので
すが、これを閲覧している獣医さんは、結構いるようなのです。
その中には私の兄弟子達や御近所の先生達もいらっしゃるようです。
当然、私の知らない多くの先生方もいらっしゃるわけでして、ウサギに
今、どのような疾病があるのか情報収集を目的として閲覧されている若
き獣医師の先生がおられれば、ちょっと整理しておいた方が、話を理解
していただきやすいかなと考えて、独り言を述べたということなのです。

>「腫瘍細胞同士の接着性は乏しいです。腫瘍細胞の核には大小不同が
 見られ、また二核や多核のものも散見されます」と言う所見でした。  
 コメントには「腫瘍細胞同士の接着性に乏しいことから非上皮系腫瘍
 の存在が考えられます。腫瘍細胞間に多量の粘液成分が存在すること
 から特に粘液肉腫の可能性が高いです。」とのことでした。
 先生に説明をしていただいたのですが、難しくて・・・


上皮系の細胞は、皮膚や粘膜の最上部を被う細胞ですから、お互いにく
っつきあってシート状になろうとする性質があります。このため、直接
外界と対峙する部分の細胞膜は鮮明ですが、細胞同士の接着面や細胞質
そのものは、不鮮明になりがちです。
これが、非上皮系の細胞ということになると、接着性に乏しく、細胞同
士はバラバラになりがちで、細胞質の内容も比較的明瞭ということにな
り、記載されております病理組織検査所見と一致しております。
したがいまして、非上皮系細胞による腫瘍という診断根拠も、正当なも
のですし、「粘液腫」の特徴もキチンと確認されていますし、腫瘍細胞
における核の悪性所見も認められております。
この所見であれば、「粘液肉腫」という診断に落ち着くのは妥当なこと
だと私も考えます。

非上皮系細胞の腫瘍がバラバラになりがちと書きましたが、この性質の
ために腫瘍細胞自体にまとまりがなく、周囲組織への浸潤が広くびまん
性になりやすいのです。癌腫であれば、腫瘍細胞が集塊となっているの
で、肉腫よりも腫瘍細胞の取り残しが起きにくいということになります。

このような病理組織用語というものは、一見とっつきにくいかもしれま
せんが、これは慣れです。
一定の法則で割り振られている住所番地のようなものです。番地の割り
振られている法則が分かっていれば、初めての土地であっても目的地を
捜すのは容易です。
目の前にある組織標本において、どのような特徴のある細胞から構成さ
れている細胞群あるいは、組織であるかということから、法則にしたが
って推理して行くと、名称が搾られてくるということになります。
探偵小説や推理小説を読み進めていくのに近い作業とも言えるでしょう。

ただ、それが今回の粘液腫の場合は、犯人は腺上皮細胞ではなく、線維
芽細胞の姿形を変えたものであって、法則から外れてしまっているので
す。
ですから、この法則を承知していない飼い主さんであれば、疑問をだく
ことなく話のやりとりが可能なのですが、逆に腫瘍の分類が頭に入って
いる者にとっては、ぶちさんの話に違和感を覚えると言う可能性が出て
きて、検査機関や主治医の先生の説明に納得できないこともあるという
ことなのです。
そこで、老婆心から、独り言を述べたということになります。

ぷちさんが紛らわしい書き方をしたというのではなく、「ウサギの粘液
肉腫」そのものが、紛らわしい要素をもっているのです。
ですから、ぷちさんが気にされる必要は少しもありません。むしろ、驚
かせる結果になって、こちらこそ恐縮です。

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