獣医師広報板ニュース

鳥類掲示板過去発言No.1700-200509-110

re:気嚢破裂
投稿日 2005年9月20日(火)12時21分 投稿者 プロキオン

この記載内容ですと、私が答えてしまってよいものもかどうか…。
というのは、診察されている先生の話を否定せざるをえないというか。
それでも、やはり「気嚢破裂」であろうと思いますから、説明せざるを
得ないというか…。

まず、日本には小鳥の診療を専門として成立している病院は片手に及び
ません。「小鳥の診療もやっています」が普通の形態です。
そして、そのような病院においても、技量と知識には相当の差が存在す
ることを承知しておいてください。

まず、鳥類には「横隔膜」という組織は存在しません。哺乳類のような
胸腔と腹腔を完全に遮断している「横隔膜」が存在していると、呼吸が
できないからです。
鳥類の肺は、肋骨の間隙にも入り込んでいて、肺そのものが膨らんだり、
縮んだりということをすることができません。そのために気管支の内面
の組織が肺の外側に突出して、膨らんだり縮んだりをして、肺(肺胞)
の中に空気を出し入れしています。この組織が「気嚢」であって、その
存在する場所によって「鎖骨間気嚢」とか「後胸気嚢」とか呼ばれてい
ます。
そして、気嚢の中でも最も大きいのが、「後胸気嚢」と「腹気嚢」であ
って、これらの気嚢は、胸腔内ではなく、腹腔内の広いスペースを利用
して膨らんだりしています。
つまり、「横隔膜」が存在して胸腔と腹腔を遮断してしまっていると鳥
類は、呼吸できなくなってしまうんです。
鳥類においては、「横隔膜」は退化したような形になっていて、痕跡と
しての存在でしかありません。
したがいまして、横隔膜が裂けて生じる「横隔膜ヘルニア」は最初から
発生しようがありません。

また、「腹壁ヘルニア」というのも便宜上の呼称であって、解剖学的に
はヘルニアではありません。
本来の腹壁ヘルニアは、腹壁を構成する何種類かの筋肉が裂けて、消化
器が皮膚の直下に脱出することなのですが、鳥類の腹壁はひじょうに薄
く、特に文鳥のような小鳥では肝臓などが肥大していれば、ヘルニアで
なくても目で確認できてしまったりします。
小鳥の場合での腹壁ヘルニアという状態は、その多くが卵管の腫大や肝
臓や筋胃に圧迫されて、消化管が腹部前方へ押し出されて、その結果、
ただでさえ薄い腹壁が伸展して腹部が突出した状態のことを言っていま
す。
  本来の意味での「腹壁ヘルニア」もないわけではないのですが、薄
  い皮膚の下に消化管が目視できてしまいますし、従来、このような
  状態は予後不良として手をつけることは禁忌としれてきました。こ
  れは、小鳥であればヘルニアが生じたショック状態に手術侵襲を重
  ねることになり、体力的にひじょうに厳しいものがあったこと。そ
  して、もう1点が今回の気嚢の存在でした。
  気嚢に触れないように、傷つけないようにということと、腹腔内洗
  浄を実施すると気嚢による呼吸を止めかねなかったからなのです。


ということですので、「ヘルニア」が、どちらの意味でおっしゃられて
いても、バリウムを飲ませてのレントゲンには、認めるべき変化がない
のは当然の結果です。
ま、むしろこのことによって、ヘルニアではなく、気嚢破裂ではないか
という可能性が高くなるわけでして、気嚢破裂を診断するための補助検
査とすれば、それなりの意味はあることになります。
# 普通は症状が特徴的ですので、そこまでしなくても診断可能です。

で、本題の気嚢破裂についてですが、この推移は、気嚢に空いた孔の大
きさ次第と言えます。
気嚢そのものは、気管支粘膜が膨らんでできた風船のようなものですか
ら、極めて薄く弱い組織です。針で縫って縫合するというような処置は
まず考えられず、静かに自然治癒して塞がっていくのを待つ事になりま
す。
この間においては、気嚢から漏れて出た空気が腹腔から皮下へと出てく
るわけなのですが、この漏出した空気は針で孔をあけて、外へ出してあ
げないとなりません。
そうしないと、漏出した空気によって、気嚢が膨らむ余地がなくなって
しまい、呼吸が妨げられることになるからです。根気よく空気を抜いて
あげて、気嚢の傷が塞がるのを待つというのが、気嚢破裂の処置であり
特別にむずかしい技術は必要としません。

気嚢が受けた損傷が大きければ、それだけ治癒に時間がかかりますし、
重症であれば、死ぬ事もあります。
経過がそこそこあるようですから、軽症とも言えないようですが、それ
でも、そのような状態でも本人は頑張っているようですから、時間がか
かっても、なんとか治ってくれるのではないかと思います。
漏出した空気が大量になってから一度に抜くと、血圧が急激に下がる危
険がありますから、あまり溜まらないうちに、こまめに抜いてあげてく
ださい。
大丈夫、きっと良くなってくれますよ。

ただ、何かにぶつかるとか、衝突したということが原因であることが多
いですから、気嚢破裂が何時、何によって生じたかの検討は今後のため
にも必要だと思います。



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