獣医師広報板ニュース

野生と自然掲示板過去発言No.4000-200205-34

マレック氏病とは、
投稿日 2002年5月16日(木)15時05分 プロキオン

>チーママさん、りんママさん

あの母サルの姿は、痛く胸に突き刺さりました。子ザルを庇って人間と対峙す
るあの姿を見てしまうと、理念や理屈を越えてせまってくるくるものがありま
した。ことの是非とは別に考えさせられてしまいます。少なくともそれだけの
迫力はあったと思います。

>京子さん
マレック氏病というのは、人命に由来していますので、単にマレック病とか略
してMDとか呼ばれていますが、これは獣医師にとってはひじょうに馴染みの
ある疾病です。
というのは、この疾病がいわゆるリンパ性白血病(LL)との鑑別が必要な疾
病であり、内臓や神経そして皮膚にリンパ球の増殖による腫瘍性の病変を形成
するためです。
この両者の鑑別は、結構重要であり、しばしば獣医師国家試験にとりあげられ
てきた経緯があるので、大方の獣医師は勉強してきているのです。また、我が
国においては、汚染度が非常に高く、家畜保健衛生所や食鳥検査に携わる獣医
師であるのなら知らないということがあってはならない疾病です。

病変としては肝臓や脾臓を中心に内臓に白血球の腫瘍性増殖による白色の結節
病変を形成するもの、神経組織とくに座骨神経に腫瘍性に浸潤して神経麻痺を
起こすもの、皮膚に柔らかい疣状物を広範囲に形成するもの等にわけられます。
この疾病の恐いのは、ヘルペスウイルスであって、免疫抗体が上昇してくると
神経組織に逃げ込んで、ウイルスの駆逐が困難であり、かつそのために非常に
広範囲に汚染を広げてしまう点にあります。
異常鶏を発見したときには、すでに群全体や鶏舎や農場全てが汚染されている
ことになります。我が国においては、さらに事情が悪く汚染されていない種鶏
場を捜す事の方が困難なのです。これは私が大袈裟に言っているのでは無く、
多くの獣医師が承知していることであり、成書にも記載されていることです。
私も以前、この疾病の浸潤状況の調査に手を付けたことがあるのですが、検査
する事に意味が見出せない程浸潤していました。

では、何故野鳥のレスキューにおいて、問題とされてこなかったのでしょうか。
簡単に言ってしまえば、レスキューに携わる方達がこの疾病について認識がな
かったからです。我が国では野生動物獣医学がなかったので、これを伝える術
を持ち得なかったといえます。レスキューに携わる人々もいきおい海外に文献
を求める事に成なり、我が国における汚染の実態を知ることもなく、野鳥への
伝播という可能性を考えるのに至らなかったのです。
もう1点、この疾病の特徴として発症日齢に1つの山というか片寄りがあるか
らです。つまり、ウイルスに感染している鶏でも発症日齢よりも前に出荷して
しまえば、鶏肉としては異常なしで検査を通過して市場に流通することになり
ます。人体への感染発症の報告はありませんので、人間を守るための検査では
問題無しということになっています。

しかしながら、昨日から述べているようにこれを猛禽類等に餌として給餌した
場合、かなりの確率で感染を成立させてしまう恐れがあります。肉もいけませ
んが、内臓は特に危険です。
肉を与える必要があるのであれば、これは獣肉を選択するべきなのです。

有り体に白状してしまえば、私も最初から今のように危機感を持っていたわけ
ではありっません。ある野生鳥獣の救護に携わっている獣医師の著述の中に、
マレック病の感染を指摘している箇所があり、その汚染実態とワクチンの問題
点を知る身としては、自分自身の認識の甘さを恥じた次第です。
何もないところから、手探りで救護を確立してきた獣医師ですので、その指摘
にはただ感心するばかりでした。まさしく、「先生」と呼ぶのにふさわしいと
思いました。

文献についていえば、家禽疾病を扱っている本であれば、必ず掲載されていま
すし、農協なぞが養鶏農家むけに出している本にも載っています。それくらい
ポピュラーな疾病なのです。
参考までに、「日本野性動物医学会」のURLをお知らせしておきます。
http://www.jjzwm.com

文献をわざわざ捜さなくてもおおよその概略はこちらで、わかると思います。

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