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「最後の家族」  村上龍 2002.04.22







家族について書かれた残酷で幸福な最後の物語。
(帯より)



秀吉(父)・・会社の経営状態が悪く、リストラ、倒産に怯えている。
昭子(母)・・引きこもりの息子のためにカウンセリングを受ける日々。
       年下の大工の延江と、付き合っている。
秀樹(息子)・・引きこもって2年。外に出るのが恐ろしいが、
        ある日、窓から、隣の家のDVを目撃する。
知美(娘)・・現代っ子で、明るいが、心の中では、家族のことを心配している。


この家族4人の心の内が、それぞれの視点で書かれています。
一つの出来事に対するそれぞれの考えや、感じ方が分かって面白かったけれど、
同じ出来事が、4回繰り返されるので、ちょっとまどろっこしい感じもしました。

ひきこもり、DV、リストラ、中高年の自殺・・・それぞれ、社会の抱える大きな問題ばかりです。
そんな重いテーマのメインは、なんと言っても、家族でした。
昔の家族は、父親を頂点として、家族が寄り集まって、力を合わせて生活していたのに、
今は、家族といっても、皆心がバラバラで、ただ、一緒に寝起きしているだけ。
やむなく家族と離れて住み始めると、かえってホッとしている自分に気づく。
家族という目に見えない拘束から解き放たれた開放感は、よく分かります。

著者は、「『家族がバラバラになってハッピーエンド』というアイデア」を思いついてこの作品を書かれたそうです。
日本人に欠如している自立という概念。
その自立とは「人生で具体的に何かを選ぶこと。自分で生活する能力があることが必要条件。
経済的な裏付けのない自立はありえない。」と、言うのです。
「親しい人の自立は、その近くにいる人を救う。
一人で生きていけるようになること。それだけが誰か親しい人を救う。」とも、文中で書いています。
そんな完璧な自立をはたした家族が、ハッピーエンドになる物語でした。

去年、ドラマ化されたそうです。