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「吾妹子哀し」    
青山光二  03.09.13



    
自分の愛に責任を持たなければーー
少しずつ壊れてゆく痴呆症の妻ーー
夫の老作家を支える、
かけがえのない恋慕の記憶。(帯より)


表題作で川端康成文学賞受賞作の「吾妹子哀し」(わぎもこかなし)と、その続編「無限回廊」の2編からなっています。

89歳になる作家、杉圭介の一日はアルツハイマー痴呆症の妻杏子の介護に明け暮れる。
病気による頭脳の混乱、崩壊によって日常生活が出来なくなりつつある妻を年老いた夫が介護するのです。
そこには、悲惨とか、悲壮とかいう言葉が浮かんできそうですが、この小説には、むしろ、慈愛とか、ユーモラスとかいう言葉が浮かんできます。

記憶を失った妻が下駄箱の中に化粧品を並べたり、食器棚にスリッパを入れたりする行為、そればかりか、トイレの使い方まで忘れてしまって、粗相してしまう妻を、呆れながらも受け入れ、共に生きて行く姿は、感動を覚えました。
そして、二人のさらに深まる瑞々しい愛情を感じて、うらやましくもありました。
この境地に至れるのは、長い年月の積み重ねと、信頼と、愛情があってこそのものなんでしょうね。
読んでいるうちに、この夫婦の年齢が、80歳をとうに超えている事を忘れてしまうほどの精神的な若々しさを感じました。
でも、妻の突拍子もない行動に、こんなに落ち着いた対応が出来るのは、年の功なのでしょう。お互いの年齢を考えながらそれにあった対処をしていくところは、見事の一言です。
そして、共白髪でしかも、旦那様にこんなに愛情たっぷりに介護されるなんて、女房冥利に尽きますね〜。

著者の青山光二さんは、1913年生まれの90歳。奥様は、今は施設に入っているそうです。ということで、この小説は、自分の経験を下敷きにした、私小説なんですね。
こんな素敵な夫婦愛を読ませていただいて、ありがとうございましたと言いたいです。