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「メタボラ」
  桐野夏生


破壊されつくした僕たちは、<自分殺し>の旅に出る。
なぜ<僕>の記憶は失われたのか?
世界から搾取され、漂流するしかない若者は、日々の記憶を塗りかえる。
孤独な魂の冒険を描く、まったく新しいロードフィクション! (帯より)


題名から、小太り中年男のコメディーかと思っていたら、全く違いましたねーーー(^^)。
題名の「メタボラ」の意味が本の帯に書かれていました(*)。

沖縄が舞台で、宮古島の青年ジェイクが主人公の一人なので、方言が、たくさん出てきます。意味の分からない単語もありましたが、ジェイクの口癖の「なんとなんと」とか「オゴエッ」とか「あばっ」とか、つい口をついて出そうになりました。これらの言葉は、どういうイントネーションで言えば正解なんでしょうかね〜〜(^^)。

そのジェイクのあっけらかんとした言葉と、内面とは対照的に、主人公のギンジは、混沌としています。それもそのはず、彼は、記憶喪失だったからなのでした。
この対照的な二人の青年が、出会い、助け合い、そして、心の支えになっていくのは、多少の違和感があるものの、分かるような気もしました。実質的に、二人とも、ほぼ天涯孤独だったからなのでしょう。

後半は、悲惨な物語になり、世の中には、こんなこともあるのかもしれないと思わせる、重苦しい話になっていきます。まるで現代ではないような、でも実は、現代社会を底辺で支えるこんな人たち。確かに、すべてが、どうでもよくなりそうです。それに比較して、自分の現実のありがたみが、再認識されました。贅沢を言ったら罰が当たりそうです。

そしてラストは・・・。まるでリアルタイムのようなこの二人の青年に、未来はあるのでしょうか・・・。明るい海を前にして、なおいっそう暗い二人の闇が見え隠れしているようでした。(2008,01,03)



(*)メタボラ
「メタボリズム(METEBOLOSM)」からの造語。そもそもは生物学用語で「新陳代謝」の意味だそうだが、都市を生物体としてとらえようとする建築家たちの運動でもある。(帯より)