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「東京島」
桐野夏生  


あたしは必ず、脱出してみせる――。ノンストップ最新長篇!
32 人が流れ着いた太平洋の涯の島に、女は清子ひとりだけ。いつまで待っても、無人島に助けの船は来ず、いつしか皆は島をトウキョウ島と呼ぶようになる。果たして、ここは地獄か、楽園か? いつか脱出できるのか――。欲を剥き出しに生に縋りつく人間たちの極限状態を容赦なく描き、読む者の手を止めさせない傑作長篇誕生! (出版社 / 著者からの内容紹介より)



無人島に流れ着いた男たちと、たったひとりの女の、生き残るためのサバイバル・・・。
まるで、TVドラマ「LOST」と「蠅の王」そして「ザ・ビーチ」を足したような話でしたが、ただ一つ違うのは、そこに、女性が一人だけいたということです。
この女性の存在で、争いが起き、悲劇が起きるのでした。

なんとこの話には、元となる実話があったそうなので、これまたびっくり。
それは「アナタハン島事件」と呼ばれ、第二次世界大戦中の1944年、男32人と女一人が無人島で6〜7年間暮らしたという事件です。その時も、この本と同じような事が島内で起きたというのですから、まさに事実は小説よりも奇なり!世の中、何が起こるか分からないです。

九死に一生を得て、島にたどり着いたら、そこは無人島だったと分かった時の絶望感。海流が激しくて、逃げられないと悟った時の無力感。物資をより多く持っている者の優越感。自分の持ち物が狙われていると疑う猜疑心。等々、追い詰められた人間の心理が細かく描かれています。
想像は出来るけど、やはり実際には、想像を絶することなのでしょうねぇ。
私だったら、そんなところに閉じこめられたら、何を夢想するでしょう。早々と気が狂うか、何を想ってもしょうがないことだと、達観してしまうのか・・・。

ただ一人の女性として、女王のように振る舞った清子の、ジェットコースターのような気持や地位の変化が痛々しくて、ここまで人間、利己的に、自分中心になってしまうものかと、暗澹たる思いも感じました。でも、ぎりぎりの生活をしていたら、きれい事なんて、言ってられないのかも。
動物的に、ただ生きることのみを考えてしまうかな。
登場人物のそれぞれの考え方や生き方に、いろいろ考えさせられました。 (2008,09,12)