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「雉猫心中」
井上荒野


これは愛だろうか?新直木賞作家、受賞後初の長篇小説。ともに結婚している男女が、むさぼるように求めあう愛欲の一年を見事な文体で描く、著者の最高傑作。不穏な空気がサスペンスを呼ぶ。そして、静かな官能があふれてくる。「大貫知子は、物欲しげに俺を見た。それがあの女に対する、俺の最初の印象だった」「晩鳥。荒地に生えた一本の木みたいな男。孤独に晒されているのではなくて、孤独に守られているような男」巧緻な構成で編み上げられた至高の恋愛小説。 (内容紹介より)


この題名、そして、この装丁。ネコ本かな〜と思いながら読み始めました。
確かにネコは、出てきます。可愛い雉猫が。
でも、それだけではありません。ロマンスもあり、そしてミステリー的でもありました。さすが「切羽へ」の作家さん。一筋縄ではいきません。

メインの登場人物は、大貫知子と晩鳥陸朗の二人。
二部に分けられた各部で、それぞれが自分の心情を吐露しています。

第一部の「おわりのはじまり」で、大貫知子は、不穏な日常を語ります。何が起こったのか、何が起こるのか分からない私は、彼女の日常、ネコとの出会い、ロマンスの始まりの予感などを、何とも分からない不安な気持ちで読み進めました。

登場人物は、彼らの他にもいます。普通の町の普通の住人たち。そして、それぞれの家族。
でも、二人の目を通して見る彼らの、なんと怖くて、不気味なことでしょう。
それぞれが、みんな下心があり、自分たちを陥れているような、そんな怖さがありました。

そして、この本を読んで感じるもう一つの怖さは、男と女。同じ時の流れに対して、彼らは、こんなにも、違う見方、感じ方をするものなのか。
これでは、日常生活において、意見が衝突し、平行線をたどるのは、当たり前だなと、衝撃と共に、しみじみ思ってしまいました。
あとに残るのは、狂った日常、そして、平穏な毎日・・・。 (2009,02,28)