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「黒百合」
多島斗志之


六甲山に小さな別荘があるんだ。下の街とは気温が八度も違うから涼しく過ごせるよ。君と同い年のひとり息子がいるので、きっといい遊び相手になる。一彦という名前だ」父の古い友人である浅木さんに招かれた私は、別荘に到着した翌日、一彦とともに向かったヒョウタン池で「この池の精」と名乗る少女に出会う。夏休みの宿題、ハイキング、次第に育まれる淡い恋、そして死ーー1952年夏、六甲の避暑地でかけがえのない時間を過ごす少年たちを瑞々しい筆致で描き、文芸とミステリの融合を果たした傑作長編。才人が到達した瞠目の地平! (表紙折り返しより)



題名から、ちょっと暗めのミステリーを想像していたので、最初、戸惑いました。

はじめは、1952年、六甲山にある別荘での、中学生たちの夏休みの様子が描かれています。
都会の暑さから逃れて、涼しい六甲で過ごす夏休み。そこには出会いもあり、そして、淡い恋も生まれます。
ノスタルジックな描写が続き、おどろおどろしい物語を想像していた私には、ちょっと拍子抜けでしたが、これはこれなりに、少年たちの物語として、楽しく読めました。

その後、時代はさかのぼり、昭和10年。そして、昭和16〜20年、27年。そしてまた、1952年と、時代は、めまぐるしく変わります。
年代も、西暦で書かれていたり、元号で書かれていたりと、紛らわしいなと思っていたら・・・。

あれっ?と思うところもあって、何回か、前を読み直して確認したりもしました。
そういうことも、年代の表記にしても、読み手を混乱させるには、それなりに意味のあることでした。

読み終わって、思わず、人物相関図を書いてしまった人は、私だけではないはずです(^^)。
あちらこちらに張り巡らされた、読者へのミスリードの罠。思わず唸ってしまいました(^^)。
面白かったです。 (2009,04,09)