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「盤上の夜」
宮内悠介

デビュー作にして直木賞候補作(第147回)
2010年代を牽引する新しい波
囲碁、チェッカー、麻雀、古代チェス、将棋・・・・
ひとりのジャーナリストが物語る、対局をめぐる6つの奇蹟 (帯より)

直木賞候補作で、第1回創元SF短編賞 山田正紀賞受賞作です。
ということで、手に取った本ですが、題名から推察できるように、6編全てが、盤上ゲームの話。
私は、将棋とか囲碁とかチェスとかが、好きではないので、ちょっと読むのに、抵抗がありました。
実際、最初に登場する表題作、「盤上の夜」は、私にとって、とても読みにくくて、読み切れないかもと思ったのですが、なんとかクリア。

それが、2話目の「人間の王」で、すっかり惹きつけられました。
今はもう廃れてしまったゲーム「チェッカー」で、40年間無敗を誇ったチャンピオン、マリオン・ティンズリーの話です。
チェッカーというゲームのことは全然知らなかったのですが、おそらくノンフィクションと思われるティンズリーの、あっぱれな人生(後で調べてみたら、やっぱり実在の人物でした。)、なかなか興味深かったです。

3話目は、麻雀の話の「清められた卓」。
私は、唯一、麻雀だけは、子どもの頃に家族で遊んだので、ルールもよく分かり、読んでいて、ぐいぐい惹きつけられる面白さがありました。
麻雀は、ここに描かれているゲームの中では、唯一、4人で行い、また、偶然性の高いゲームなので、試合における競技者間の駆け引きが面白いのです。

4話目は、「象を飛ばした王子」。
古代インドで発祥した、将棋やチェスの起源と考えられている「チャトランガ」。
これまた全く知らないゲームなのですが、物語は、そのゲームが出来上がるまでの過程が、描かれています。
壮大で、ミステリアスで、胸躍る楽しさを感じることが出来ました。
ただ、名前が覚えにくくて、大変でしたが・・・(^^;。

5話目は、将棋で、「千年の虚空」。
これはさすがにフィクションでしょうか?
壮絶な話ですが、読み応えもありました。

そして、最後の6話目は、また、1話目の由宇と相田も登場する囲碁の話で「原爆の局」。
ここには、実際にあった”原爆下の対局”も描かれ、その棋譜も、掲載されています。
囲碁が好きな人には、なかなか興味深いものなのではないでしょうか。
また、連作の締めくくりとして、3話目に登場した新沢も出てきて、サービス満点。

読み始めた時は、半ばいやいや?読んでいた様なものでしたが、2話目以降は、面白くて、ぐいぐい読み進みました。
フィクションと、ノンフィクションをうまい具合に取り混ぜ、時にはミステリアスに、時には幻想的に描かれるゲームの世界が興味深くて、満足できました。(2012,10,03)