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カインは言わなかった
芦沢央


狂おしいほどに、選ばれたい
才能ー俺にはそれがあるのか。
ダンサーと、画家の兄弟。
答えのない世界でもがく孤独な魂は、
いつしか狂気を呼び込み、破裂する。(帯より)



はじめて読む作家さんでした。

芸術に生きるということは、なんと辛いことなのでしょう。
演出家の意図することをどうすれば、理解し、会得出来るのか。
悩んで苦しんで葛藤して、死ぬ思いをした後に、やっと自分のものに出来て、そしてはじめて、人に感動を与えることが出来るというわけでしょうか。

そんな辛い世界にのめり込んでしまった人は、果たして幸せなのか、それとも不幸なのか。
同時に描かれていた恋愛の苦しさも、それに通じるものがあるようにも思えます。
結局、辛くて厳しい道だからこその達成感が、たまらない快感になってしまうのでしょうか。

描かれるのは、バレエの初日を目前に控えたある日。
どうして主演ダンサーが練習に現れないのか。
代役に選ばれた男は、無事に舞台に立てるのか。

数人の人物が登場して、それぞれの主観で物語が描かれています。
名前が覚えきれなくて、前のページを繰り直したりもしましたが、
そんなに多くの人が登場するわけではないので、それぞれの立場や、その思いがよく伝わってきました。

ラスト数ページで、全てが明らかになります。
そういうことだったのか・・・。
演出家への思いは詳しく描かれていたのに、実際の当事者の気持ちがよくわ分からないままになり、バランスが悪いかなと感じました。
でも、エピローグの最後に、モヤモヤしていたものが、すっきりとして、読後感は良かったです。 (2019,11,17)