第8回全国学校飼育動物研究大会まとめ 

               【無藤隆 白梅学園大学学長】

 本日、午前中から発表を聞いておりましたので、そこから学んだ点、また、今回8回目ということですけれども、だいぶ進展してきたということですので、少し整理してみたいと思います。
 これまで数年間の成果として進んできた部分と、本日発表していただいたいろいろな実践研究の中で、新たな方向やまた課題をいただいたと思いますので、その辺を整理してみたいと思います。

まず、かなり進んで来たぶぶんを4点あげてみます。

第1点目は行政的な支援体制の方向が非常に明確になってきたということです。品川区の例が、本日の発表の中で教育委員会からありました。それ以外の地域においても、学校獣医師制度がかなり導入され始めてきています。また、そこまで制度として確立していなくても、学校が獣医師やそれ以外の専門家と協力しながら、しっかりやっている姿が見えます。そして、特に教育委員会、市、県、さらに文部科学省側の支援が必要であるという認識を皆さんがもつようになってきたということが大きな変化であると思います。もちろん、まだ財政的には厳しい状況ですから、その点が十分ではないと思いますけれども、そこは、非常に大きな変わり目に来たということが言えると思います。

第2点目は、やはり、この会、各地域の獣医師会、また、理科教育関係等で、動物飼育についてどういうやり方が良いのか、特に学校という場においては、どういうことを注意しなければならないか、ということが非常にはっきりしてきたということが言えると思います。もちろん、一般の方々への普及というのはまだこれからだと思います。学校の中で飼う動物が減ってきていたり、本来、現在の学習指導要領でも動物飼育を行う必要があると思いますが、動物のいない小学校がかなりの数あるようです。しかし、どう飼えば良いのかということについて、獣医学的、生命科学的な根拠の中で、はっきりしてきたということが言えると思います。そしてまた、そのようなことを心得ている専門家が各地におられて、いろいろな形で支援を飼養という体制が整いつつあるということが心強いことであると思います。このような運動の中心に本会がなっていけば、さらに心強いことになると思います。

3点目としては、いろいろな実践または研究の中で、本日の言い方で言えば学年飼育ということになると思いますし、愛情をもった飼育と科学的な視点をもった飼育とを合わせたものとでも言いましょうか、そのような形の飼育が良いということも明確になってきたことだと思います。その具体的な中身は、子どもたちが動物に愛情をもって関われるように、動物とコミュニケーションがとれるようにすること。また、ただ遊ぶだけではなく、日々世話をする等々の中で、今日もいろいろな検証がなされておりましたけれども、子どもたちが動物を好きになる、また、動物についての様々な知識を得ていく、ということが実証されてきています。そういう意味では、学校の中で動物をしっかりと飼うとするならば、どういう形が良いのかというところもずいぶん見えてきたのではないかと思います。

また、4点目として、その中で、特に保護者の関わりが重要であるということもわかってきました。単に子どもたちが学校の中で飼うということではなくて、休日や長期休業中の取り組みや、あるいはアレルギーへの対応について、それぞれ、保護者、家庭での理解が十分に必要なことであるので、どのように保護者に説明し、わかってもらうのかということについても、本日の報告にも出てきたことであります。

以上4点が、この会を中心として、獣医師会の協力を得ながら、ここまで来たと実感したところであります。

次にまた4点、これからの2年、3年というところを目指して、さらに頑張ってやらなければならない点をあげていきたいと思います。

まず1点目は、本日のカエルであるとか、ヤギであるとか、発表の中に出てまいりましたが、動物の種類を増やしていくという実践はどのようなものであるのか、ということの検証が要るように思います。おそらく、動物の種類によって、また、年齢によってもいろいろと変わると思いますし、また、学校の中の物理的地理的条件なども違うと思いますが、どういう動物がふさわしいのか、ということについては、ある程度の部分においては、ウサギやモルモットやハムスター、またはチャボなどがふさわしいと思いますが、それ以外の動物にも当然ながら飼う価値があると思います。また、発表の中にもありましたが、様々な動物にふれあう中で、今、環境保護でいちばんのキーワードの一つである、生物学的な多様性というものに気づいていくのではないかと思います。また同時に、様々な動物に出会う中で、生態系の問題、生き餌を食べるという話もありましたが、それはもう少し大きく言えば、食物連鎖の問題であり、生態系の在り方の問題に入っていくわけです。そういった中での気づきをいうことをどのように組み込んでいくかということが課題となると思います。そういう意味で、最近少し考えている問題の一つは、動物を飼育する場合に、動物と心が通い合い、共感できる。そしてそれを通して動物に対して愛情をもつということはいちばん大事ですが、他方で、いささか気になっているのが、家庭でのペットとして、たとえばイヌやネコについてです。私は朝7時台に天気やニュースを見るわけですが、イヌやネコのかわいい様子が写る短いコーナーがどこかのチャンネルにあります。あれはあれでかわいいと思いますが、動物飼育の筋として考えると、果たしてあれで良いのかと、疑問を抱くときもあります。あまりにそれは人間に近すぎやしないか。動物を飼うということの意味、またそこで命に気づくというときに、動物の気持ちになりにくい、共感しにくいという動物に接することも大事かと、最近思うようになりました。やはり、カエルの話が出ていましたが、イヌやネコと違う感覚を抱くのではないかと思います。そういうことも含めていくことがこれからの課題として大切なことであると思います。

2点目は学校ぐるみ、さらには地域ぐるみの活動として発展させていくということです。本日、町田市の大戸小学校の事例は、非常に感動的でありました。あれだけの規模の飼育の場が学校の中にあるというのは、滅多にない条件です。それにしても、これから、地域とどんなふうに結びついていくかということ、学校の先生や子どもたちだけではなくて、保護者を巻き込み、さらに地域ぐるみの中で、学校の活動をどう生かしていくか。非常に大きな課題ではないかと思います。私たちは、学校教育の中で動物飼育を進めていきながら、命の教育をどう進めていくのかを考えていますが、他方で、家庭や地域の中では、動物が虐待されていたり、動物の姿が消えていったりしては困るわけで、やはり、家庭でも地域でも命を大切にする。そしてまた学校においてもそういう活動があるということが望まれるのではないかと思います。

3点目は、ちょうど学習指導要領が改訂される時期に入ってきました。来年度、改訂される指導要領の解説が出て、その次の年度から少しずつ実施されていくわけです。ちょうど学校現場としては、それを学ばなければいけない時期でありますので、その時期をとらえて学校飼育動物の意義、また具体的な方法を先生方に学んでいただく大きなチャンスだろうと思います。そういう意味では、先生方の研修をどう進めていくかという課題があります。全国の何万人という先生方に対して、教育委員会や獣医師会、各種の学会など、いろいろな場で研修に取り組んでいく必要があると思います。また、各学校の中で、一人二人の飼育専門の先生だけが良くわかっているということでは続かないわけですので、その学校のすべての先生が、多少とも飼育動物に興味をもっていただいて、ある程度の知識が得られるという状態にしていきたい。そのための研修というものを全国的に展開する必要があると思います。

最後4点目に、永田先生のご講演の中にもありましたが、新しい指導要領の中で、新しい教育課程がつくられるわけです。その中で、幼稚園教育から始まって、生活科、また総合的な学習の時間、教科としては理科や道徳、特別活動になると思いますが、その中で、多少とも動物飼育が位置づけられているわけです。いちばん明確なのは、生活科において動物飼育を継続的に行うということが明記されました。これは、正直言って非常に微妙な審議会でのやりとりの中で、12月のギリギリのところで決まったことです。それ以前はどうなっていたかといいますと、動植物の飼育栽培と書いてありました。それが、「動物と植物の双方の」ということになり、動植物というだけであれば植物だけでも良いわけですが、こうなることによって、動物も植物も両方とも飼育栽培しなければいけないことになります。かつ、また、それだけですと、たとえばザリガニ捕まえて翌週戻しても良いわけですが、「継続的」ですから、それは数日ではだめだろうということになります。そこで私たちの主張の一部がそこで実現することになると思います。しかし、本日の実践発表やフロアからの発言もありましたが、幼児期から始まって、小学校3年から6年、また中学、高校、さらに大学、各学校段階それぞれにおいて、動物飼育の意味があるわけです。それらすべてが指導要領上保証されているわけではないことが残念ではあります。しかし、やってはいけないというふうに書いてあるわけではないし、関連づけられる項目も出てくるわけです。その手がかりとして、学校飼育動物を継続的に飼育していく必要性があるわけです。それについては、特に来年度、再来年度に各学校で新しく教育課程をくんで年間指導計画をつくるわけですので、そこにどのように盛り込んでいくかということです。そこで、一切、学校飼育動物についてふれられないと、その学校から動物飼育は消えるということになりますので、今が非常に大きな曲がり角に来ているということになります。そういう意味で、是非各地でご努力いただきたいと思いますし、私たちの会もいろいろなところで発言していきたいと思っています。

ということで、このように非常に重要な時期に大会を催せたということで、非常に良い大会になったと思います。いろいろと勉強させていただきました。どうもありがとうございました。