全国学校飼育動物研究会 顧問   無藤隆 唐 木英明

            
                    研究会に期待するもの
                         白梅学園短期大学学長 無藤 隆
 
 学校で動物を飼育することの教育的意義は言うまでもないことです。家庭で動物を飼えない状況の子どもが多いことに加 え、その世話をしたり、正しい理解を したりすること庭で必ずしも容易ではありません。といっても、学校で飼育するための障碍もかなりあります。何より多くの現場の教師にとって、動物の飼育の 知識やノウハウを得ることが難しいのです。特に習ったわけでもありませんし、間違った情報が流布していることもあります。市販の本に書いてあることも十分 ではありません。学校の現実の状況に合わないこともあります。

 では、何が必要か。何よりも、この研究会のように、学校の教師と獣医師、また様々な専門の研究者が集い、情報交換する場が肝腎なのです。具体的なポイン トが分かり、実際の予算も人手もない中でどうやれば動物が飼えるのか、どのように配慮すれば愛護しつつ子どもにとって意味のある飼育の形態に出来るのかが 分かるでしょう。どんな動物でもよいわけではないようです。子どもにとってかわいく思え、大切に育てたくなるものでなければなりません。ある程度、人に馴 れてほしいですが、といって、犬のように特定の個人になつく動物は集団の場である学校にはふさわしくないでしょう。病気になったりしたときに、対応が容易 であることも望まれます。獣医師の援助があるとしても、例えば、大型動物はなかなか飼育が簡単ではありません。また、世話の手間もあまりに難しいものは困 りますが、といって、放っておけばよいとうのでは、子どもの世話が必要なくなり、近づく機会が失われます。すぐに死ぬものも困ります。

 学校の体制も検討する必要があります。世話はどうするのか。動物と親しむ時間をどの時間帯に確保するか。場所はどうするか。休みの時の世話をどうする か。そういった手間をあえて掛けるだけの価値が本当にあるのだろうか。時にそういった疑問も投げかけられます。それに答えるには、単に家で飼えない子ども が多いという理由では不足しているように思えます。飼育の教育的な意義をはっきりとさせる必要があります。また、その意義が十分に発揮され、子どもに好ま しい影響を与えうる条件を探ることも大事です。どうやら、単に学校で動物を飼っていれば、自ずとよい影響があるというわけではないようです。子どもの情操 にプラスの意味があるのだと力説され、それはそうだと思うのですが、でも、そう述べるだけでは、疑問視する側には説得的ではありません。学校での実践の実 例と、また実証的な検証が求められます。

 こういった実践や研究や情報交換を奨励し、また発表の場を作り出し、互いに学ぶ場を作れないか。何か病気が流行ると、あっというまに、学校から動物が消 えていき、ただ安全策を取るばかりなのが、多くの日本の学校の現実です。しかも、その心配は実際にはほとんど無用のことなのです。
 年に2回程度は大会が開かれ、それ以外の機会としてはメーリング・リストやその他のやりとりが進められることになると思います。本研究会の活動が全国の 子どもの成長に少しでも役立つことを期待しています。

                                   (白梅学園短期大学学長/お茶の水女子大学客員教授)


                            全国学校飼育 動物研究会の発足にあたり

                                                  日本学術会議会員 唐木英明
 
 2003年6月に、日本学術会議科学教育研究連絡委員会と獣医学研究連絡委員会は、文部科学省に対して学校における動 物飼育について以下の3点の対策を 推進することを提言した。

1)教育に動物を効果的に利用する方法および、関係 法令に従って動物を適切に飼育する 方法についての基礎的教育を、教員養成課程に取り入れる。
2)動物の飼育指導、疾病予防と治療、保健衛生指導、動物愛護教育指導等の推進のために、各地の教育委員会と獣医師会の 協力関係を推進する。
3)動物飼育の教育上の効果に関する研究を活性化し、その成果を教育現場に取り入れ、生命尊重、生命科学等の教育の充実を図る。

 日本獣医師会は最近、学校飼育動物委員会を設置し、この問題を取り扱う際の基本方針として、以下の4点を確認した。
1)学校において動物を飼育することについてはさまざまな意見がある。しかし、本委員会は飼育動物の教育効果を認めてこれを促進する立場に立ち、動物の飼 育環境の改善のため、そして教育効果の向上のための対策を検討する。
2)この事業は獣医師側と教育者側が、個人レベルではなく組織レベルでの協力体制を確立することが必要であり、その実現の方策を検討する
3)飼育動物の問題は獣医師と教員の協力だけでは不十分であり、必要事項に関しては行政、医師会、保護者、教育学者などと協力する
4)最後に、獣医師会の内部でも飼育動物の問題についての意見分布は広いが、獣医師の社会的責任を自覚し、協力してこの問題に対処するよう呼びかける。
 
 学校飼育動物をどのように教育に役立てるのかについては、教員の努力と獣医師の支援にかかっている。さらに、医師、保護者、教育学者など多くの方の支援 も必要である。何より重要なことは、一人でも多くの人に、この問題に興味を持って頂くことであろう。全国学校飼育動物研究会の発足がこの課題の大きな前進 の一歩となることを心から願っている。
                            (日本学術会議会員・東京大学名誉教授)
  ( 図は掲載しませんでした)   
                        

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